ウイレン(アムネシア、イッキ、シンメイン☆連載中)

□飛行少女
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『…今日も苦しい。』


時々耐えきれなくなって、彼女たちの視線を掻い潜って一人きりになる時間を作った。屋上に行けば、風通しが良いからか少しは息が吸える気がして、いくらかマシになる気がした。


いつものように屋上の扉を開けた、瞬間だった。


屋上には、飛行少女が居た。






『………うわ、凄い。』




『キャア!』

彼女は着地した瞬間、バッと扉を振り返った。


『あ、ゴメン。驚かそうと思ったワケじゃなかったんだ、つい。』


『…そうですか。』


彼女は僕を少しだけ睨んだ。“なんなの、この人”彼女の顔にはそう書いてあった。


『ねえ、今バク宙してたでしょう、もう一回してみせてよ』


『…嫌です。もうしません。』


『なんで?凄く、綺麗だったのに。』


凄く、綺麗だった。

長くて黒い髪がひらりと流れるようで、小柄な彼女のバク宙は“舞う”と言う言葉がピッタリだった。


『…女の子には、皆にそんな事を言うんですか。』

『え?』

彼女はキッと僕を睨み付けていた。眉間には一瞬シワが寄っていたし、不機嫌そうな顔。

…彼女は、怒っている?


『…よくその言葉の意味がわからないけど、僕は綺麗なものにしか綺麗とは言わないよ。』


『…………』



『あ、そうだ。名前、教えてよ。いつかバク宙見せてもらうために。僕の名前はイッキュウ、』


『…知ってます。先輩は有名ですから。凄く。』


『ああ、知っててくれたなら話は早い。で、君の名前は?』



『嫌です。
教えたくありません。』


彼女はそう言い放つと、屋上の扉を開け去ってしまった。彼女が階段を降りるトントン、という音が屋上に響いた。



あの子、僕の目が、効かない?

あんな態度をとられたのは、はじめてだった。僕に対する不信感や、反抗的な態度。

僕はその日一日、彼女が宙を舞う姿をずっと思い描いていた、息苦しさも忘れて。
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