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□このままで、
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いつまでも、このままで
繋がっていたい、と思う
そんな夢のまた夢を見ながら
今日も、
【このままで、】
狭いボロアパートの一室。
財布の中身は酒に姿を変えちまって、もうすっからかん。
酒って言っても、一升瓶の立派なやつじゃない。
缶ビールに、甘めの酎ハイ。
それが2、3本ずつビニールの中でゴロゴロしてるだけ。
仕方がないだろう。
最近、ロクな仕事が入ったためしがない。
金もないのに酒を買って、秋の寒空の下、吐く息が虚しく白んだ。
壊れて使えないインターフォンの代わりに、立てつけの悪い戸をトントン、と叩く。
「はいはーい、」
中から心地いい声が聞こえて思わず目を細めた。
「んしょ、と。……おぉ、銀さんじゃん」
「…よぉ。大分扉ヤバいんじゃないの」
ひょっこり中から現れた、長谷川泰三。
この俺、坂田銀時の、恋人。
「そうなんだよねぇ……開けにくいし、風吹いたら怖いくらいガタガタいうし、やっぱ直してもらった方がいいかなぁ」
「なんなら、俺、いいとこ紹介するよ。安くやってもらえるように交渉してやるからさ」
「ホント?銀さんてば男前だね」
「それほどでもねぇよ」
寒ィ、と呟けば、ごめんごめん、と苦笑して中に入れてくれる長谷川さん。
外とそれほど変わらない、底冷えする部屋に男二人、肩を並べて。
卓袱台に無造作に買ってきた酒の入ったビニールを置く。
こんなことなら、キンキンに冷えた缶ビールなんかより、熱燗にすれば良かった。
そんなことを思いながら、最近新しく出た酎ハイに手を伸ばす。
長谷川さんは酎ハイを好まない。
味はだって、ジュースみたいだから。
「寒いねぇ」
独り言のようにそう呟いて、長谷川さんは缶ビールを手にとり、冷たい、と笑った。
いつもと同じ、よくそんな恰好でいられるなって思うくらいの薄着で、着物の奥には着古したタートルネックのセーターが覗いている。
下なんて、薄手の七分丈で、脹脛が丸見え。
「見てるこっちが寒いよ」
思わず言ってしまうと、長谷川さんはきょと、として、苦笑した。
「だよねぇ。ごめんね」
生活費のために殆どのものを売っ払って、嫌に片付いた小さな彼の城。
小さな声でも変に大きく聞こえる気がした。
元々酒は好きだが、強い方だと言えばそれは嘘になる。
それは長谷川さんとて同じ。
直ぐに上機嫌になって、頬を紅く染めて、わけもなく笑ったりちょっかい掛け合ったりする。
べろんべろんに酔うほど酒は持ってきていないが、無い金をはたいて買ったビールも酎ハイもいつの間にやら空になっていた。
アルコールで心地よくなった俺は、隣で無意味に呑んだ酒のカロリー計算を始めた長谷川さんの鼻先に、一瞬だけの口付けを落とした。
「あはは、何、もぅ」
長谷川さんが、酒臭い、と笑いながら、俺の口付けの跡を拭う。
「あ。何。拭ったでしょ、今」
わざと絡むと、長谷川さんは楽しそうにけらけら笑った。
「だってぇ、お酒臭いもん。銀さん。鼻になんかちゅぅしないでよ」
「いいじゃねぇの、美味しそうだったんだから」
「オッサンはカレー味です、加齢だけに、あはは」
「何それ寒いんだけど、ははっ」
「笑ってんじゃん」
ふふ、とはにかんだ長谷川さんに、今度は真正面からキス。
唇に。
「……」
「……」
カサカサしてて、弾力のない薄い唇。
女のそれとはかけ離れていて、顎に手を添えると女にはあるはずのない、髭。
それをざりざり撫でながら、ほんの少し口角を変える。
長谷川さんは少しだけ肩を震わせて、でも俺の唇をそっと舐めた。
どちらともなく、舌を絡めて。
長谷川さんの細い腕が俺の首に回ったら、それは、その気であるという合図。
口付けたまま、そんな彼をゆっくりと畳に押し倒して、薄手の下履きの上から膝で長谷川さんの中心を圧迫する。
ゆるゆると、誘うように。
「、」
息を詰めて、長谷川さんが唇を離した。
「……電気くらい、消してくれる?」
心底嫌そうに言うから困る。
「分かったよ、」
本当は、煌々と照る電球の下、長谷川さんの痴態を眺めていたいのだけれど。
嫌われたくはないから、電気のスイッチを渋々切った。
月明りで薄暗いが、慣れてしまえば表情なんて丸分かりなのに。
そんなことを口走りそうになって、止めた。
厚手のカーテンなんて、買われたら困る。
「…寒い、銀さん」
「…大丈夫、どうでもよくなるから」
長谷川さんのところに戻って、彼のセーターを捲り上げると、彼は口を尖らせた。
風呂に入った後だからか、長谷川さんからほのかに石鹸のいい匂いがした。