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□Black Smile
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今日も平和だ。


欠伸を一つこぼしたところで、本日最後の授業の終わりを告げるチャイムがなった。

激しい戦いも既に遠い記憶。
一度は我が故郷キンモクセイ星に戻ったのだが、またこの美しい地球に大気、夜天と供に戻ってきた。

表向きには修行と言うことになっているが、本当のところは違う。

もう一度、大好きな彼女の側にいたい。

その気持ちが俺を動かしたんだ。

アイドルをやりながらの学生生活は決して楽ではないが、彼女の為ならなんてことはない。

チラリと想い人に視線を向ける。
クラスメートと談笑中の彼女の笑顔はやはり、今日も可愛い。


例え、ラブラブな恋人がいようが、彼女の気持ちが一切俺に向いていないとしても俺はそう簡単に諦めない。


「星野!また明日ね!」


一人物思いに耽っていると、既に帰宅準備を終えた彼女が早くも教室を出て行くところだった。


「お、おい!お団子!」


慌ててかけた声は既に届いてはいないようで、俺は彼女の後を追うために急いで帰宅準備をはじめたのだった。








「おい!お団子!待てよ!」


校門付近で漸く彼女に追い付いた俺は、軽く切れた息を整えてから側に寄る。

何故俺がこんなに急いで彼女を追っかけたのか。
それは、久しぶりに仕事の予定が入っていなかったからだ。

放課後に一緒に過ごせる事なんて滅多にない。
このチャンス、逃してなるものか!


「なぁに?星野。」


呼び止められて不思議そうに覗き込む彼女に心臓が早鐘を打つ。
大きい瞳に、愛らしい唇。
何度見ても間違いない。可愛い。

そんな気持ちを悟られないように、俺はいつもの様に平静を装う。


「オマエ今日暇 ?」


「え?予定はないけど。皆、部活あるんだってー。」


やっぱりな、と心の中で密かにガッツポーズを決めた。
普段、愛野とかと一緒に帰る事が多い彼女が一人で帰宅するなんてそれ以外考えられなかった。

予め、予想していた通りだ。

仲間が部活=邪魔者がいない。

今日の俺はツイている!

よし!イケる!


「あのさ!今日これから俺とどっかに」



「うさ。」


「!!!」


勢い勇んだ俺の声を遮って聞こえてきたのは。

少し低い、だけど良く通る声。

顔を見なくても誰だかわかる。


「!!!まもちゃん!!!」


彼女は心底嬉しそうにソイツの名前を呼ぶと、走って俺の横を通り過ぎていき、そのまま抱きついた。


「なんで!?どーして!?今日用事あったんじゃないの?」


「うん。そうだったんだけど。用事なくなったから。驚かせようと思って来てみたんだ。」


「!!!嬉しい!!!」


心の底から嬉しそうな彼女の笑顔は先ほどクラスメートに見せていたそれよりも更に可愛かった。

そんな可愛い笑顔見せるなんて反則だろ!

羨ましいんだよ!てか、俺の存在忘れてませんか?


「やぁ、星野君。久しぶり。」


「・・・どーも。」



彼女を抱きしめたまま、顔だけこちらに向けてニコリと笑う。ただ、目は笑ってはいないが。

本当に久しぶりだ。前に会ったのはいつだったか。
しかしいつ見ても整った顔をしている。
アイドルの俺ですらそう思う顔でそんな笑い方をされると、少しビビってしまう。


「・・・いつも俺のうさと仲良くしてもらってるみたいで。ありがとう。」


「・・・いえ・・・」


俺のうさ!?って言ったか!?今!


さらっと俺の、と発言されて悔しさが胸に広がる。
ちくしょう、羨ましいんだよ!



「で、うさに、何か言いかけてたみたいだけど?邪魔しちゃったみたいで悪かったね。続き、どうぞ?」


「・・・」


「・・・」


「いや、大したことじゃ、ないんで・・・」


「・・・そう?」


言える、訳がない。あんなヤバいオーラを出されて言える奴がいるか!!

普段は無害そうな顔してる癖に、彼女が絡むとコイツはいつもそうなんだ。



「ね、まもちゃん!早く行こうよー!」


「あぁ、どこ行きたい?じゃ、星野君、また。」


「まもちゃんと一緒なら何処でもいい!あ、じゃーね!星野!」


「あぁ・・・またな・・・」


そのまま仲良く手を繋いで去っていく後ろ姿を、呆然と見送る。

アイツは、なんてタイミングで邪魔してくれたんだ!

恨むぞ!コノヤロウ!

カッコ悪い事は百も承知でヤツの背中にそんな気持ちをぶつけた瞬間。
ヤツがこちらを振り向いた。


「!!??」


もしやアイツ背中に目でもついてるのか?

邪念を感じる能力でもあんのかよ!?

つい動揺してしまった俺にニヤリと勝ち誇ったような、なんとも言えない黒い笑顔を見せた。


「とんでもない王子様だな・・・」


今日の所は負けを認めるしかないな。と一人笑う。


でも、俺は諦めない。諦めないんだからな。


それにしてもだ。


「本当にアイツ!!!羨ましいんだよ!!!」



道のまん中で思わず大絶叫してしまった俺は周りの視線から逃れる様に走り去ったのだった。。。




end.

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