薄桜鬼

□勇気をください
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「はあ〜……」
「どうしたのよ、ため息なんかついて。」
「ううん、なんでもない……」
「なんでもないって顔じゃないわよ」
 
 お千ちゃん正解。なんでもあるんです。

「はあ〜……」
 
 私の心はこの雨降りのように憂鬱なのです。


『勇気をください』

 
 窓の外では桜の花が雨に踊らされています。
 それは数ヶ月前のこと。私、千鶴のか、彼……し……である平助君が、私のためにバイトをしてまでクリスマスプレゼントをくれたんです。なのに私はクリスマスのことなんてすっかり忘れていて……平助君はいいって言ってくれたけど、やっぱりお返しはしたい。だけど……

「なに? まだバイトの電話してないの?」
 
 お千ちゃんは呆れ顔でマグカップに口を付けます。

「う、うん……」
 
 そうなのです。平助君にプレゼントをしようと思い立ったはいいものを、そのプレゼントを買うためにするバイトの申し込みの電話ができないのです。私もマグカップに口をつけます。ココアの甘さが暗い気持ちを少しは和らげてくれます。
 あ、ここは薄桜学園の学食です。授業が終わっても利用可能なので、放課後のカフェとして使う人も少なくありません。
 かく言う私たちも、こんな風に天気が悪いときはお世話になってます。メニューは豊富。おばさん達もいい人ばかりで−−

「そんなんじゃプレゼントなんてできないわよ」
「う〜……」
 
 そうだった。今は平助君のプレゼントのことだった。

「なんでできないのよ。忙しいの?」
「そういう訳じゃないんだけど」
「まさか、怖いとか言うんじゃないでしょうね?」
「……」
「当たってるんだ」
「ち、違うよ! ただ初めてだから勇気が出ないだけで……」
「そういうのを怖いって言うのよ」
「う〜……」
「なによ、なにが怖いの? ただ電話して働かせてくださいって言うだけじゃない。あそこでしょ? 近くの喫茶店、じゃなかった。甘味どころ」
「うん。近いし、昔から知ってるから」
 
 バイト先は通勤などを考えて昔からある近所の甘味どころ『だんご屋』にと思っています。江戸時代を連想させる建物に、名前にもある名物の三色だんごは視覚にも味覚にも絶品です。

「だったらなおさらじゃない。あそこの店長ものすごくいい人だし、こーんな小さい頃から私達のこと知ってるのよ」
 
 お千ちゃんはテーブルの半分くらいの高さの空間を手で切ります。

「あの人なら二つ返事で
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