短編

□彼は
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「……天馬?」
「……あ、ごめんなに?」
「どうしたの?ぼーっとして……」


我ながらわざとらしいなあと心のなかで笑った

どうしたの、なんて
わたしが一番よく知ってるくせに


「なんでもないさ、ごめん」
「ううん、平気だよ。はやく帰ろう」
「うん」


そういいながらも彼の視線は一度だってわたしのほうにはむいていない
最初はそれでいいと思ってたのに


「天馬」
「なに?」
「どうしてこっち向いてくれないの?」


そう聞くと彼は目を見開いてこっちをみた


「見て、なかった?」
「うん、一度も」


どうして?

もう一度聞いても天馬は驚いた顔をするばかりだった
無意識だもんね、知ってるよ


「天馬は、私のこと好きじゃない?」
「なにいってるんだよ、梨奈子」


いつもの彼の、まっすぐな瞳が私を見つめた
……いや、まっすぐじゃない、少し揺らいでるように見える

あたりまえだ
天馬が見ているのはいつだってあの子なのだから

彼が、自分の気持ちに気がつくのも近いだろう
そうなったとしても、天馬は私から離れることはないのだろう

天馬は、底なしに優しいのだ
一度受け入れた私を突き放すことなどできないに決まっている


「(ずるいなあ、私)……天馬」
「なに?梨奈子」
「キス、して?」
「……目、閉じて」


天馬は私の髪を撫でながら唇に優しくキスを落とした

彼はまだ自己暗示にかかっている
松風天馬は、原梨奈子のことが好きなのだという暗示に

胸の底がちくりと痛んだ

ごめんなさい、
天馬があの子のこと好きで、あの子もそうなのは知っていた
だけど、それでも私は、彼を手放すことができないのだ







彼は
私を力強く抱きしめた後、とても悲しそうに笑った



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年明けて一発目がこのくらい話っていう
それがこのサイトなんですごめんなさい

しかも天馬くん初書きだ……()

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