短編

□涙
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※死ネタ







梨奈子が、死んだ


「……南沢さん」


葬式の後、黙って遺影を見つめる俺に倉間が声をかけた
泣いた後だからか目が赤い


「あり得ない、よな、」
「……」
「昨日まであんなに元気だったのに」


笑いすら零れそうだ
15年前から毎日一緒に過ごしてきた
朝一緒に学校へ行って、同じ教室で勉強して放課後は部活に行って一緒に帰る
家が隣同士の幼馴染で生まれたときから一緒だった

それなのに、こんなにあっけない

目を閉じるとすすり泣く声が聞こえた
あぁ、梨奈子、お前こんなにたくさんの人に愛されてたんだな


「南沢さんは、どうして、」


倉間が次に言おうとしている言葉がわかった気がした


「……なんで、だろうな」
「溜め込んでどうするんですか」
「違うよ、出てこないんだ」


一粒の涙も、俺の目には溢れてこない


「俺、梨奈子先輩が好きだったんです」


そしてまた、倉間が涙を流した
俺だって、泣けるなら泣きたい
梨奈子を失ったことを受け入れて、その悲しみを流してしまいたい


「俺は南沢さんなら先輩を幸せにしてくれるって、……っ」
「俺だって、そうしたかったさ」
「あんたは、」


悲しく、ないんですか

そう呟くように言った


「悲しいよ、きっと」
「……?きっと?」
「俺、まだ梨奈子が死んだって理解できてないんだ」


そう、今だって
「なんでみんなそんなに悲しそうなの?元気だしなよ、」なんて
そうやって普通に出てくるんじゃないかって
タチの悪いドッキリなんじゃないかって


「南沢さん……」
「それに、涙を流してしまえば死んだ事実を受け入れることになる」


俺は、信じたくない

そう呟くように言うと倉間は憐れむような、慰めるような、言い表せない表情で俺を見た











それはきっと悲しみを溶かして一緒に流れるものだから

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