LOVE

□呼声
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濁った空と、見つめたくもない地面。
幸せのハザマに死にたくなるような絶望感。
それは高校に上がって、二度目の春から卒業までの間のこと
作り笑顔に慣れた身体はとても寂しがっていたと
気づいたのは、アイツがいたから。

俺は、人間の汚さと人間の強さを同時に見ていた。
ただぼやけた視界で生きていた俺の感情が、揺らいで――…





唯一、友達と心から言える奴がいる。

村田キリトという、ちょっと変わった奴。
名前からして変わってるし、中学の時からの長くはない付き合いだけど、
家でさえ窮屈に感じてしまう俺の安らげる場所であり、瞬間でもあった。
本人の口から直接聞いたわけじゃないけど、恐らく向こうも友達は俺だけだった。

洒落っ気のない黒髪に白い肌にカタイ制服をきちんと着て勉強一筋。
一見面白みの無いタイプだけれど、彼は違う

演じているのだ。

普段の彼は口が悪くて何事にも好き嫌いが多く
出かけ先でクラスメイトと出合ったって向こうは気づかない程のオシャレさん。


(でも、そうまでして自己を隠す必要は無いのでは?)


自分自身、思ったことがあって、本人に聞いてみた事があった。
けれどすぐさま「アホ」と文字通り一蹴されて


「お前もまだまだオコチャマだな」

「・・・蹴んなくても」


フン。と腕を組み直されて、ああこの分じゃ恐らく教えてくれないだろうなぁと思ったその時


「武雄は、」

「ん?」


「周りが、自分が、楽しい毎日のがいいだろう?」



鮮やかな笑顔の霧斗が言ったその言葉は勝ち誇っていた。


「・・・そうだね」

ようやく、その時に自分も気づけたんだと、今、思う。

嘘は嫌いという人間もいる。
けれど嘘も方便。知らないほうが良い事だってある。
だから、自分に出来る範囲で
それで自分の世界が円満になるのであれば、譲るのだ。


手近でもいい、

これを人間誰しも持ち合わせていたのなら、
誰も苦しまず世界は回るはず。
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