LOVE

□BLUE SKY
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義脚の両脚と右目の無い俺と、

左目の無いコウタ
身体の色素が欠乏したジュン
組み換えDNA実験で生まれたアイジ

そして、殺人犯のタケオ。

この世界を見離そうと5人で決めたのは二年前のこと。



生まれてから続いた息苦しい日常にもう耐えられる気力も時間も無くて、


「――…二年後の満月の次の月曜日に、ここを出る」


肌寒いある夜、大切な仲間達に自分の意志を伝えた。

春夏秋冬も夜も薄暗い世界は、ただ病んで、安息の地でもなんでもない
いつからか世界は機械仕掛けFに隅々まで管理された。
そんな世界は簡単にヒトを壊していった。


「……本気で言ってんの?」

馬鹿を言うな、無理に決まってる。
そう考えるのがこの世界では当たり前…だけど、


「今まで俺とこの世界を文字通り繋いでいた足枷は時とともに錆付いて壊れた。
 俺にはこんなニヒルな世界にいる理由はもう、一つも無いんだ。」

迷いの無い俺の言葉を聞いて、四人は黙り込んでしまった。
だけれど、ずっとずっと一緒だったお前らも協賛してくれないとわかった上での決意だから。

素直な気持ちを、答えて欲しい。


真っ青な満月を見つめてるうちに芽生えた、おそらく最初で最後の思考。
ただ希望が大きいだけで、不安が無いなんて事はないけれど――…



「俺は賛成するよ。だって、なんだか面白そうじゃない?」

そう、胸にへばり付いた不安を最初に和らげてくれたのはジュンだった。

「あ、兄貴が行くなら、俺もっ」

続いて真っすぐな目で答えたのは、唯一の肉親で、弟にあたるコウタ。

「ここにいたってどうもならないしねぇ」

ふんわり笑って俺の頭を撫でるタケオは…俺にとっては特別大事な存在で。

あとは…


「わッ、わかったよ!皆が行くなら行くよ」

ひとりになるのが寂しいからだからね!と付け加えたアイジは、とても頭がいい。
だからこそ不安を抱いて、唯一反発した。

それでも、こうして意思を揃えてくれた事に


「ありがとう…」

「…いいよ。俺等、友達でしょ?」

「ぉう」


妙にお互い照れくさいけど、今は気にしないでおこう。


「それに、キリトがそんなに素直だと調子狂っちゃうって〜」

「んだとっ?!」



…近すぎて、思う事もあるけれど。


「ちょっ、ジュン君!ほら、兄貴もーっ」

「キリトは“脚”に響くんだから、大人しくしてようね〜」


こんな世界でも唯一大切だった全員が一緒で。
笑っていられるだけで、吹っ飛んでしまう不安なんてちっぽけなもんだ。


二年後の満月の次の月曜日が始まった。


止まない耳鳴りの原因は降り続く雨を吹き飛ばす巨大な扇風機の起動音

銀色の眼と爪を持った門番を小さなピストルで打ち抜き、
赤茶色した水の流れる用水路を駆け出して

ひたすら、

ひたすら、



大切な5人であの場所を目指して。










「見て。キリト、空が……!」


「あぁ…」



見上げた空は汚れなく真っ青で、
ハハ、と笑いあった。

聞こえるのは5人の荒い息遣いだけで、

見渡せば、思い描いていた世界と変わらなく
沢山の代価を払いようやく手にした幸せをめいっぱい胸に感じて。


「もう一度また、世界をはじめよう」







―――――そして次の瞬間、世界は音も無く崩れ去った。





遠くで懐かしい歌が聴こえて

また繰り返されてしまう、この世界。


end

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