ナニカ

□黄龍異世界漂流記3
2ページ/10ページ




 デオ峠突入以降、日増しどころか十数分間隔で険悪になっていく空気に僕は耐えていた。

 その主な原因になっているのは赤毛のお坊ちゃまことルークである。
元気で体力が有り余っている時分だとペースも考えずズンズンと一人先に進んでいく上、口を開く度に「ヴァン師匠が待ってんだから、とっととアクゼリュスに行くぞ!」ってセリフが飛び出す。

 かと思えば、そう時間が経たないうちに「俺、もう歩けねぇー。疲れたから休むっ!」と勝手に腰を下ろして休憩タイムへとなだれ込む。そんな事の繰り返しだ。

 僕には急ぐ理由は特にないのだけれど、ちょっぴり額の血管が浮いてきそう。さすがに阿門君ほどではないけれど。まぁ僕ですらそんな状態なので他の面子の様子はと言えば……いわずもがな、だ。不機嫌オーラが認識できるなら、まず間違いなく1メートル先も見通せない状態になってることだろう。

 いやね、先の一件とかその後も時折見ることのできた不器用な優しさからルークは良い子だと思えるようにはなったんだよ? で、道中の言動から彼がどれだけ『ヴァン師匠ラブ』かも判った。判ってるんだけど何事も程々が一番だと思うわけですよ。

 ………正直に言おう。ぶっちゃけとてもウザい。
というかルークの『ヴァン師匠』への依存度は高すぎやしないか? 心理学とかだと普通、男の子が執着を見せるのは母親らしいって聞いたことあるんだけど。たしかエディプスなんとかってヤツ。んでむしろ父親スタンスのヤツは敵対視するとかなんとか……。

 あっ、もしかして!
『ヴァン師匠』とやらはルークの母親代わり、とか……?


 ………………。


 いやいや、そんなわけ無いよね! アニスちゃんとイオンに聞いた話じゃヴァンって髭でオッサンらしいし! それにどっちかというとそのポジションにいるのってガイっぽいもんね!!


 そういえばこのウザいまでの慕いっぷりは覚えが……


 ――あ、くーちゃんか!
 ちなみにくーちゃんっていうのは昔、近所に住んでた年下の友達。本名は葉佩九龍。つい最近、意外な場所で再会したのだけれど……。普通に学校に通って普通に暮らしてるかと思ったら、驚くべき事に彼はトレジャーハンターという明らかに堅気ではない職種に就いていた。しかもなんか素で学校の備品をハントするような人間になってるし。

 ……再会するまでの約10年間、天真爛漫な小学生だった彼に一体何が起こったのかとても気になる所ではある。

 あ、でもさっきはウザいとか言っちゃったけど本気でウザいなんて思ってないよ? むしろ可愛い弟分だし、トレハンとしては先輩で師匠だし。

「だぁぁぁっ、もー歩けねぇ!」

 ……あ、また始まった。せめてもうちょっと頻度が少なかったら、まだ周りの反応もマシだっただろうに。


 ……あー、早くアクゼリュスとやらに着かないかなぁ。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ