TOA1

□よくある逆行話
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―……なぁ、ローレライ。俺、なんか嫌われるような事したか?






 どう良く見積もっても体に悪影響がありそうな紫色の空気が漂う中。ビュービューと激しい風に長い髪をたなびかせ呆然として甲板に立っている自分を自覚した瞬間、様々な疑問が頭をよぎった。よぎったのだが、見かけの年齢より少々――いや、かなりお間抜けな頭はそれらを記憶してくれず、反射的に出たのはやはり少々間抜けな叫び。

「ありえヌェ―ッ!!」

 あまりに突然だったので、足元で甲斐甲斐しくルークをなぐさめてくれていたとおぼしき仔チーグルが、元から大きな目をさらに大きくして驚愕していたが気遣う余裕などなく、自らの頭をわしゃわしゃと掻きまくる。それでも頭の片隅に「ミュウ、ごめんな」という言葉が浮かんだのは、これまでの旅で培われてきた成長の賜物か。

「ご、ご主人様っ。どうしたんですの!?」
「どうしたもこうしたもあるかっ。どうもしなかったら叫んだりしねぇっつーのッ」
「みゅぅぅっ。ごめんなさいですのっ」
「……あー、その。えぇと…別にミュウが悪いわけじゃねぇから、あんま落ち込むなって」
「みゅ? みゅみゅ? ご主人様、ボクの事ブタザルって呼ばないんですの?」

 とても純粋な目でそんなことを言われた。この仔チーグルが罵倒すらコミュニケーションの一種ととらえるほどに純粋な性格であることに気付けなかった過去の己の愚かさを悔やまずにはいられない。もっといい名前を考えてやりたいとは思うのだが。でも何度考えてもコイツ、ブタザルって感じなんだよなぁ……。

「ご主人様?」

 心配してくれるのはありがたいし、その健気さにはとっても癒されるのだが、考え事をしたい時にチーグルのカン高い声が聞こえてくるとなんかムカついて考えが纏まらなくなる。思わずぶんぶん振り回したくなるくらいに。けれども、旅の間どんなに乱暴に扱ってもずっと付いて来てくれたミュウに対してそんな暴挙には出たくなかった。なので、

「悪ぃ、ミュウ。ちょっと考えたい事があるから、ちょっと黙っててくれないか?」

 ミュウの質問には答えず―答えられず―できるだけ優しく告げる。

「みゅぅぅ。わかったですの……」

 見るからに落ち込んだミュウに、本っっ当にごめん、今度なんか埋め合わせしてやるからなとルークは思ったとか思わなかったとか。





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