TOA2

□灰は地へと還り聖なる焔の光へ(後編)
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 そうして今まさに不毛な争いの火蓋が切って落とされようとしたその瞬間、少女と青年の間に金色のナニカが割って入った。

「二人とも喧嘩はおやめなさいな。せっかくの絶景なのですから楽しまなくては損というものですわ!」

 両手を腰に当て仁王立ちする金髪の金髪の女性。どこか上品さを感じさせる物腰の彼女が、発したハッキリとした物言いに一瞬二人はポカンとした顔になったが、その言ももっともだと思ったのだろう。「だよねー。ケンカはいつでもできるけど、ここの景色は今しか見れないもんね」と、少女は改めて絶景へと視線を移す。青年も「……そうだな。貴重な機会を低俗な罵り合いなんぞで潰すのは阿呆のやる事だ」と、やはり視線は目の前の景色へ。

 おとなしく景色に見入る三人。それを見守る二人。さらにその後方に――

「――ふむ。海側が開けているとはいえ、この地形ではホドから視認するのは難しい。パッセージリングの調整という名目が無かったならば私たちがこの場所へ来る事はできなかったでしょうね」

 外歩きにはそぐわない出立ちの男性が穏やかに言う。今いる面子の中では年長者のようで落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「僕が思うにアイツがここに来たがったっていうのが大きいと思うけど」

 寸分の間も置かず、傍にいた二人目の緑髪の少年――先に言葉を発した少年に瓜二つの――が冷めた目で男の言葉を補足した。

 その隣では、

「……いい所だな」
「……綺麗」

 茶に近い赤毛にアイスブルーの瞳を持つ青年と、彼に伴われやってきた長い亜麻色の髪を揺らす女性が、景色に思わず息をのむ。女性の肩にちょこんと腰掛けたチーグルの子どもも嬉しそうな鳴声をあげる。

 本来なら彼らは目的を果たした後すぐさま本拠地に戻る事になっていた。この地が封鎖地区であるという理由から長居する理由が無かったのだ。それがこんな場所に寄り道する事になったのは、彼らの仲間の一人がこの場所へ寄りたいと強く希望したからだった。

 青年と女性の隣りにはいつの間にか、長い夕焼け色の髪を風になびかせる少年の姿。

「ここってさ、俺が初めて見た『外の景色』なんだ」

 よほど感慨深かったのか「そういえばあの時も夜だったっけ」と懐かしそうに呟いた彼こそが、この場所に来る事を提案した本人だ。



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