TOA2

□灰は地へと還り聖なる焔の光へ(前編)
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 シェリダンに程近い洞穴の奥でヴァンと、神託の盾の法衣を着た男が対峙していた。

「……それにしても。まさかお前がそちらに回るとは思ってもみなかった」

 向かいにいる男を視界に収め苦笑するヴァン。リグレットに次ぐ同志であったその男がよもや直接自分を説得に来る日が来るなど考えてもいなかった。彼がアッシュに傾倒しているのは火を見るより明らかではあったが、それでも最後まで諦観を決め込むものと思っていたのだ。

 それを正直に告げると、男も苦笑して「初めは……私もそうするつもりでした」とヴァンの推測を裏切らない返答が返ってきた。どうやらあちらにとってもコレは想定外の行動だったらしい。

「私が思ったよりもアッシュの影響は大きかった、ということか……」

 その大きさを一番に実感しているのはヴァンその人だ。しかし、男の答えは思いもよらぬものだった。

「いいえ、主席総長が迷っておられるように見えたというのが決定打です。……まぁ、師団長のお手伝いをしたかったというのもありますが」
「……」
「……それに。あの子はどうも一つのことに集中すると、他の事へ気を回す余裕がなくなるようですから。危なくっしくて手を出さずに見ているだけなんて、とてもじゃありませんが出来ません」

 まるで自らの子を語るような評価ではあったが、ヴァン自身も同意できる部分が多々ある。そして、アッシュのことを決して道具としてみている訳ではない自身の感情を思い知らされた。

「初めは人形だと割り切っていた筈だったのだがな……」

 人形なのだから御することは簡単だ、と傍に置いたことが良かったのかそれとも悪かったのか。

「今となっては愚かとしか言えない考えだが、その選択は間違ってはいなかったと……そう、思っている」

 そんな苦笑と共に吐き出されたヴァンの独白を聞いたのは、彼がかつて『人形』と嘲っていた存在の副官とも言うべき男だけだった。



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