TOA2

□灰は地へと還り聖なる焔の光へ(後編)
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 セレニアの花が風にそよぐ音だけが渓谷に響き渡っていた。

 そんなシンと静まりかえった夜の渓谷に、いつしかサクサクと草を踏みしめるいくつもの足音が響いたのは、月が空の中心まで昇った頃の事。



 先陣を切ってやってきたのは黒髪の少女だった。

「わぁっ、すっごくキレー! こんなトコにこんな場所があるなんて知らなかったぁ〜」

 ゆったりとした服をふわりと浮かせながらクルクルと舞う。そんな少女の後ろから「おいおい、あまり回りすぎると目が回るぞ?」なんて苦笑しつつ金髪の青年が「それにしても……。俺は昔からホドに住んでたが此処の事は知らなかったな」なんて呟いた。そんな小さな呟きに、青年の隣りを歩く、おっとりとした風体をした緑髪の少年が目を丸くした。

「貴方でも知らなかったなんて、ここは相当な穴場なんですね」
「……まぁ、此処自体は問題ないんだろうが、陸側の入口が封鎖地区にかかってるからなぁ。このご時世にわざわざ船を出すヤツはもちろん、捕まるリスクを負ってまで来るヤツはいないって事なんだろうさ」

 セフィロトはその重要性から厳重な警備が敷かれ、周囲には一般人のみならず無許可の者の侵入を禁止する封鎖地区まで設けられている。例えセフィロト侵入の意思が無くとも一歩足を踏み入れただけで重い罰が下るというのだから、近年では子供でも近づかない。

 青年と少年より少々後方、彼らの話を黙って聞いていた紅髪の青年は何か思う所があったのか。

「おい、ガキ。下手すりゃこれで見納めだ。そんなに気に入ったんなら目に焼き付けておく事だな」

 先行する少女へとぶっきらぼうに言い放った。この地の事情を鑑みれば間違った事は言っていないはずなのだが青年には心遣いというものが若干欠けていた。……正確に言うなら年頃の少女と話すためのコミュニケーション力が。

「ちょっともうっ! レディに向かってガキはないでしょっ、ガキは!! アンタそんなのでホントに貴族のお坊ちゃんなワケ!?」
「ふん、残念だったな。お前がいくら批判しようが俺が貴族という事実は覆らん」
「むぅぅっ、世の中ってぜぇーったいに不公平! あたしは慎ましく頑張ってるって言うのに、なーんでこんなお坊ちゃんばっかり優遇されてんのよーっ!」
「慎ましい? お前が?」

 ハン、と鼻で笑い、「それならこの世界には図々しい人間は一人もいねぇって事になるんだが?」と皮肉たっぷりに告げる紅髪の青年。「ソレ、どーいうイミよ! アンタみたいなデリカシーの欠片もないヤツなんて潰してやるんだから!!」



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