TOA2

□よびごえはとどかない1
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「ねー、ラムちゃ――」
「――ルカ様」

 貴族らしからぬ言葉を紡ごうとした現・主の息女へ、ラムダスは短く名を呼ぶことで無言のプレッシャーを与える。長年ファブレ家で使用人達に恐れられているのは伊達ではないようで、ルカはだらけきっていた背筋をピンと伸ばし居住まいを正して問うた。

「……ラムダス。屋敷の中が騒がしいようだけれど、何かあったのかしら?」

 その母親を思わせる淑女ぶりに、「流石はナタリア様とアッシュ様の御息女でございますな」とラムダスは密かに感嘆を漏らした。しかし表には出さず彼女の質問へ返答する。

「どうやら朝から昼にかけての間、屋敷に賊が侵入したようなのでございます」
「…………賊ぅ!?」

 ルカが驚きの声をあげたのも無理はない。……淑女のメッキが剥がれたのも。なにしろ十数年前にとある女性の侵入を許したのをきっかけに元から厳重だった警備はさらに強化されていたはずだったのだ。それに――

「王城のお膝元にあるウチに忍び込むって何処の命知らずよ? ……勇気があるというか何というか」

 ルカの意見にラムダスも内心同意する。そして同時にそんな輩が現れた事の意味を考え、今回の事が厄介な事態に発展しなければよいが……とも思案したが、それこそただの一執事が憂慮すべき事ではないと頭を振った。

「どうやら既に屋敷内からは立ち退いているようですが……確実に安全とも言い難い状況ですので、本日は護衛の者たちを撒くなどという事はなさらぬようとの伝言を『ルーク』様よりお預かりしております」

 当然と言えば当然の指示に、ルカは頬を膨らませた。父が自分の事を大切に思ってくれていると判るのは嬉しくない事もない。だが、それとは別にしてわかることもある。


 今日はつまらない一日になりそうだ――と。



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