TOA1

□目指す方向は…
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「あんまあの二人に負担掛けたくね―んだけどなぁ…」


 現在の技術では再現できない、幻想的な部屋へ彼らが足を踏み入れた直後に聞こえてきたのはそんな言葉だった。
声の主は背を向けているのと考え事に夢中だからなのか、こちらに気付くそぶりは全く無い。だが、その姿は記憶していたものとは少々異なっていた。腰まであった夕焼け色の髪はバッサリと切られ、毛先は襟元でひよこの尻尾のようにピンと突っ立っている。以前は髪に隠れて見えなかった服の背には二本のツノをもったマスコットが見え、どことなく幼くなった印象を受けた。

 そして、久しく会うことのなかったその人物――ルーク――をみとめた瞬間。自称親友であるガイが感極まって華麗な神速ダッシュを披露しそうになったが、前触れも無く巨大化した人形――トクナガに取り押さえられ潰された。

(アニース、ナイスですv)
(えへへ、それほどでもないですよぉ〜v)

 そんなアイコンタクトが交わされたかどうかはともかく、ジェイドとアニスは互いに親指を突っ立てた。その様子にガイと同じくルークに声をかけようとしたナタリアは固まり、ティアは呆れた。イオンはアニスの所業に慣れているからか、いつもの微笑を絶やさず見守るのみ。三者に共通することといえば決してトクナガのいる方へと視線を向けないことだろう。憐れガイ。

 ジェイドは後に語る。目の前の確実に何かを知っていそうな重要参考人がうっかり重要証言をしてくれるかもしれないというのに、好機をつぶされてはたまりませんでしたからガイにはおとなしくなってもらいましたvと。

 背後でそんな光景が繰り広げられているのにも気付かず、ルークの独り言は続く。

「……だいたい、一人でセフィロトに来てユリア式封咒解いても、肝心の制御盤を起動できなきゃ俺にできる事って無いじゃんかよー」

 制御盤を起動するという言葉に緊張が走る。彼にはアクゼリュスの崩落という前科があり、今は何を目的に動いているのかがサッパリ掴めないときている。ヴァンとの繋がりが不明であることも手伝って悪い推測しか浮かんでこないのだ。

「ご主人様っ、ボクにはよくわからないですけど元気出すですのっ」

 健気に主人を気遣うミュウへ、ああ、わかってるよミュウ。と優しげに答える姿に、ジェイドたちは本気で彼は本当に自分たちの知るルークなのかと頭を捻りたくなった。彼らの知っているルークならこんな時、うるせーとか言いつつミュウをグリグリと踏みつけるか蹴り飛ばすか、どちらにしろ無体な扱いをするのが常だったからだ。

「……やっぱり、みんなと合流しないことにはどーにもなんねーのかな」
「ご主人様、ティアさんたちといっしょに旅したいですの?」
「まぁ、な。……ってなんでティアの名前出すんだ、こんのブタザルッ!」
「みゅみゅっ。ご主人様照れてるですの〜♪ 
 でもミュウは知ってますの。ご主人様はとっても優しい目でティアさんのことを見てたですのー」

 優しい目で見るのはとっても大好きでメロメロだからですの!
だからご主人様はティアさんが大好きでメロメロなんですのー! ですのー! のー!

 ミュウの高い声が部屋の中に響き渡る。
ぼひゅ。と、音が出そうな勢いで体温が上がったのをルークは自覚した。ついでに頭に血が上って、今にも気が遠くなりそうなくらいのぼせた。図星だったから余計に。

 ちなみにもう片方の当事者であるティアも少しばかり顔を赤くしていたので、現状で脈なしというわけではなさそうだ。アクゼリュスの一件から考えればそれだけでも驚愕の事実ではあるが、きっとユリアシティでの抱きつきが尾を引いているのだろう。ナタリアは「まぁ、そうだったんですの?」と口に手を当て目を見開き、ジェイドは「おやまぁ青春ですねぇ」と生暖かいコメントを残し、アニスは「はぁ!? アイツあんな事しでかした直後なのに何すっとぼけた事言ってんの!?」と憤慨。イオンは「まぁまぁ、アニス。落ち着いてください。ルークにだって人を想う権利はあるのですから」と宥める。ガイは未だトクナガの下敷きであるが「ルぅークぅ〜、お前もついに恋をするような年にぃぃー」と、感激しているのか悲嘆に暮れているのか判別の難しい呻き声をあげていた。





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