TOA1

□幸せの紅いチーグル
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 剣の師であるヴァンに連れられダアトへやってきて数ヶ月。自らに与えられた小さな部屋で過ごしていたアッシュは、背後に何者かの気配を感じた。それも唐突に。


「誰だっ!」


 とっさに振り返った彼の目に飛び込んできたのは――紅い髪。
しかし、この世界でこの鮮やかな紅を持つのは自分を始めとしたキムラスカ王家に連なる者のみ。だが――


「お前のような親族がいるなんて聞いた事がない。……お前、何者だ?!」


 謎の侵入者は二十歳ほどの青年だった。所々に黒いラインの入った白い上着に黒いズボンを着ていて、旅人なのか黒い外套を纏っていた。特徴的なのは澄みきった碧の瞳と、腰まで伸ばされた紅く長い髪。


「……えーっと、そのー……」


 はるかに年下のアッシュに威圧され戸惑う青年。本来ならば凛々しさを感じさせるであろう顔の造りをしているのだろうが、今その眉尻は下がりまくっていてとても情けない表情をしていた。この時点でアッシュはこの青年が荒事目的で侵入してきた可能性を切り捨てた。

 そしてはっきりしない態度の青年に苛立ちを募らせるアッシュだったが、なぜか目の前にいる青年に対して懐かしさも感じるのに気が付いていた。記憶の中に該当する人間がいないにもかかわらずだ。

 ここに鏡でもあれば気付いたかもしれない。二人の容姿は歳の差こそあれ、とても似通っている事に。

「何者だと聞いている! ……それに何の目的で俺の前に現れた?!」

 一向に質問に答えようとしない青年についにアッシュは切れた。けれど当の青年は、うーんとひとしきり頭を捻ったあとキョトンとした表情でこう言ったのだ。

「えっとな、実は俺にもわかんねーんだ。……なぁ、俺って誰なんだ?」
「はぁ!?」









 ――それが彼らの出会い。




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