TOA1
□鮮血と公爵子息と紅いチーグル
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「うわー、ここに来んのも久しぶりな気がするなぁ」
しばらくぶりの光景にルークは思わず弾んだ声をあげた。
見渡す限り一面の暗闇。だというのに何故か自分の姿ははっきり見えるし、不思議と不安にならないという少々不可思議な空間。初めて訪れた者――といっても、ルークはここで自分ともう一人と一匹以外の生物に会ったことなど一度も無かったが――なら少なからず戸惑うこの場所だが、ルークにとっては通いなれた場所だ。
幼い頃はそれこそ毎週のように。最近では月に一度あるか無いかというくらいの頻度になってしまったが、ルークはこの場所が大好きだった。ここに来ればひと時だけでも閉塞された屋敷の空気を忘れる事ができるし、同居人の機嫌が良ければ外の風景を見せてもらえる。
今日はどんな景色を見せてもらおうか? なんて未だ見ぬ未知の風景を想像してウキウキしていたというのに。
すかこーん!
なーんて軽い音をたてて頭にぶつかった物体のせいで台無しだった。一体何が飛んできたんだと目をやるとそこには受け身をとれなかったのか、きゅぅと可愛らしく目を回す紅い毛玉が一つ。
同居人はルークを除いて一人と一匹で、その内の一匹は目前で目を回している。ならば犯人は言わずもがな。消去法で言ったら一人しか残らない。視線の先には黒い服に身を包み、長い紅髪をたなびかせて堂々と仁王立ちするルークと同じ容姿の青年が一人。
「アッシュー……」
「いつまでもボーっとしてんな阿呆が。時間が押してんだ。正気に戻ったんならとっととこっちに来い」
ルークの恨みがましい視線など何のその。全く悪びれた様子も無くアッシュは次の行動を促してきた。
「だからっていきなりモノ投げつけんなよッ! そんなこと俺だってわかってるんだから、まず口で言ってくれりゃ良い事だろ!?」
「それもそうか」
テメェも会った頃と比べりゃ格段にマシになったからな。
そんな呟きがルークに届く。けなしているようにしか聞こえないが彼なりの褒め言葉なのだと、それなりに長い付き合いでわかっていたから、それ以上ルークが彼に突っかかる事は無かった。
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