TOA1

□ファブレ邸にて
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 偽姫騒動が一件落着した後、謁見の間を後にした一行が足を向けたのはファブレ公爵邸だった。なぜかといえばルークが母親へ自分とナタリアの無事を伝えたいと主張したため。無事を伝えるだけなのだから用はすぐに果たされ、今日中には外殻降下のための作業に戻れるものだと皆が思っていた……のだが。

 応接間でルークを待っている間にガイが何気なく「あ、そういえばアッシュに渡したい物があったんだった」なんて言ってしまったせいで、その予想は崩された。


 そして、今に至る。


「うんうん、やっぱりお前はその格好の方が似合うなぁ」
「ええ、六神将の格好も似合ってないとまでは言わないけれど……違和感は拭えなかったもの」

 満面の笑みで「俺の腕も捨てたもんじゃないな」と自画自賛するガイに、言葉とは裏腹に頬をほんのりと赤く染めたティアが「うん、うん」なんて頷き返す。

「体格も顔の造りも同じですのに不思議なものですわよね。まぁ、ルークとアッシュが同じではないという明確な証拠ですけれど。……ですが私も六神将の格好をした『ルーク』よりは、こちらの『ルーク』の方が好きですわ」

 そう言って微笑みをたたえたナタリアが向けた視線の先には、『ルーク』として旅をしていた頃と寸分かわらぬ衣装を身につけたアッシュの姿があった。ちなみにガイのお手製である。ガイ自身の記憶は七年程前に戻ったのだが、誘拐事件後戻ってきたのがどうも被験者であると悟ってしまった。ちなみにルークはヒラヒラしたデザイン重視の衣装よりも、シンプルで機能性のあるものを好むので彼の衣装ストックにこの系統のものは無い。だから『ルーク』が着ていた服は作られる事すらないだろうとも悟った。そのため、それからというもの縫製は専門外ではあったが『ルーク』との再会を願い――逢う事ができたならば贈ってやろうなんて思いつつ――ながら一針一針心血注いで完成させたらしい。

「この格好のほうがご主人様ってカンジがするですのーv」
「アッシュは黒より白い服のほうが似合う、です」
「ん、サンキュ。けど久々だからわかるけど、この格好って腹が寒ィのな」
「そりゃあ、そこまであからさまにヘソ出ししてたら寒いだろうね」

 感想大会には参加していなかったシンクが呆れつつ口を挟んだ。

「あはは。今じゃ教団から支給された服か特務師団の皆から貰った服くらいしか持ってねー上に、そっちに慣れちまったからなぁ」

 でもまたこの服が着れるだなんて思ってなかったから、ちょっと……いや、かなり嬉しいかも。

 はにかんだ笑みと共にアッシュが呟いたのを見て場がワッと沸く。まぁ、場を沸かせているのは二人しかいないが。

「……それにしても怖いぐらいジャストフィットなサイズで執念ここに極まれりなんだけど。……ねぇ、ガイ・セシル。キミさ、労力の使い所をトコトン間違えてない?」
「そんな事は無いさ。俺はコイツの心の友兼使用人だぞ?」

 いままで何もしてやれなかったんだ。こんなのは労力を使ったうちにも入らないさ。

 爽やかに告げられた台詞だったが、なんだか粘着質な黒さを感じ取ってしまいシンクは身震いしたのだった。




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