ナニカ

□トレハンさんじょう
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 外殻降下作戦より少々の時が流れ、場所はシュレーの丘。




「ここは一体ドコなんだよー! だよーっ。よー……」

 ちょっと小高めな丘から叫ぶ珍妙な格好をした少年がいた。
 頭には本当にものが見えるのか心配になりそうなゴーグルらしきものを着け、パンパンに膨れ上がったポケットが沢山ついたベストに、両の手には甲に複雑なシンボルの書かれたグローブを身に着けている。そしてトドメとばかりに、肩には全長が約1メートルくらいの銃を背負い、腰の左右には紫色を帯びた古めかしい剣と刀身が真っ赤な刀が下がっていた。ちなみに全体的に黒い。

 ここに近隣の住人がいたらまず間違いなく街の詰め所に駆け込むだろう。そんな怪しさ大爆発の不審人物だった。

「それがわかったら苦労はしないだろうが。……というか九ちゃん」

 その不審人物に声をかけた猛者は、モジャモジャとした頭――ワカメ頭といえば判りやすいか――にパイプを咥える眠そうな目をした青年だった。その気安さから知り合いだと判るが、こちらは至って普通のジャンパーコートを着た普通の人間だ。

「甲ちゃん、なんか用かー? ようかー。かー……」
「一人山彦ゴッコだったか。うっとおしいからヤメテくれ」

 九ちゃんと呼ばれた少年はキョトンと首を傾げたが、すぐに不機嫌顔になり「ぶーぶー、甲ちゃんのけちー」なんて子どもじみた声を上げた。甲ちゃんと呼ばれた青年はいささか呆れた風だったが、いつもの事だったから「ケチで結構」と軽く受け流す。

「ぶー、張り合い無いぞ甲ちゃん。でもわかった、善処する。…………だが断る!」
「……全然善処してない気がするんだが?」
「したもーん。二秒くらい」

「…………なァ、九ちゃん。俺らは今、遭難してるんだよな?」
「ま、そうなるなー。いきなり遺跡のつくりが変わって『不思議な事もあるもんだー』とか言いつつ外出たらナンジャコリャーッ! だし!!」
「………………その割には緊張感皆無だなァ、オイ」

 少年のノリについていけなくなったのか、げっそりと呟く青年。反対にやはりテンション高めの少年は、「甘いなっ、甲ちゃん!」と言いつつチッチッチと人差し指を振った。

「テンション高めにしとかないと俺が平静を保てないんだよ!!」
「……あー、お前も一応は普通の神経を持ってたってことか」
「甲ちゃん、ひどっ! 俺、一応だけど一般人の端くれだっていつも言ってんのに酷いッ!!」
「そう思われたいならもう少し常識ってヤツを身に着けろよ」
「どーせ俺は中卒の世間知らずだぁぁッ!!」

 そうしてギャアギャアとにぎやかな二人組は知らず知らずながらセントビナー方面へと足を向けていた。



 彼らがいつ大きな流れに巻き込まれるか。それは誰も知らない。


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