ナニカ

□黄龍異世界漂流記2
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「そういえば、まだ貴方の名前を聞いていませんでしたね。」

 緑髪の少年がにっこりと微笑みながら問いかけてきた。全身から感じられる儚さが少しだけ気になったけれども、不躾に質問するわけにもいかない。それにしても同じですます口調+笑顔だというのに眼鏡の人とは大違いだ。ハッとして「……あっ、名前を聞くのなら自分から名乗るのが礼儀ですよねっ?」なんて言いつつ慌てる様が微笑ましいことこの上ない。眼鏡の人は絶対にやらないだろうけど。

「えと、僕の名前はイオン。一応、ローレライ教団で導師の任に就いています」
「あ、丁寧にどうも。ええっと、僕は……」

 と、自分の名前を言いかけて言葉に詰まった。
 本名を名乗るべきか、ハンターネームを名乗るべきか、はたまた偽名を名乗るべきかとかそんな事で悩んだわけではない。どうも外国っぽいこの世界で名乗りを上げる場合、名前が先か姓が先か? そんな疑問が頭を掠めたのだ。……くだらないだなんて言わないで欲しい。僕の渡航経験はエジプトと中国だけなんですっ。しかもエジプトなんか行ってすぐにトンボ帰りだったんだよなぁ……くそぅ、《秘宝の夜明け》め。

 ……って、嫌な事思い出してる場合じゃなかった。自己紹介自己紹介。

「えーっと、その。一応、姓は緋勇で名前は龍麻っていうんだ」

 でも結局、答えが出なかったので無難な自己紹介に。

「タツマ、ですか。変わった名前ですわね。ああ、私はナタリアですわ」

 そりゃー、こんな外国文化真っ只中で漢字名はめずらしいだろうなぁと思いつつ金髪の女性――ナタリアによろしくと返す。それを皮切りに一同の自己紹介タイムへとなだれ込んだ。

「わたしはアニスだよー。イオン様の導師守護役なの」
「私はティアよ。ティア・グランツ。神託の盾で音律士をしているわ」
「俺はガイ・セシル。んで、あっちでぶーたれてる赤毛が俺のご主人様のルーク」

 それとその肩に乗っかって「みゅうみゅう」言ってるのがミュウな。

 ガイさんの仕切りだして紹介が進んでいく。……のだが、その解説は生憎と僕の中では右から左へと流れていく。

 ええと、『ご主人様』………?
ガイさんみたいな爽やか好青年から飛び出すにしてはえらく不穏当な単語のよーな…。


 ………。


「ま、まさかガイさんてそういうシュミのヒト!?」
「へ?」



 間。




 場の人間が心なしかガイさんから一歩引いたのを僕は確かに見た。もちろん僕も一歩引いちゃった人間の一人なんだけれども。



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