華信(仮)

□第十一話 千色紬絲
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 寮を出て五つの鐘を聞きながら別館にある道場へ足を運ぶ。扉を開ければもう何人もが整列をすませていた。

 基本的に、十六以上の下忍は七つまで訓練をしなければならない。
 十あるうちの五日は道場、残りの五日のうち三日は草原、二日は自由時間を与えられる。
 ただし、外出は範囲が決められているし、遠出はジュウの許可が下りないとできない。
 月に一度だが夜中に性技もこなさなければならない。
 性技は上忍の付き添いではじめ、半年ごとに採点結果が届く。規定の点に満たない者は仕置きをされる。

 仕置きの種類はさまざまで、過酷なものから簡単なものまであるが、積み重ね方式で徐々に重くなるのが常識だった。


 木刀を握る手に力が入る。
 どうして、と繰り返し記憶に問いかけた。

 【言わないでくれ……】

 声が頭の中、谺して離れない。


 できるならば互いに傷つかない方法を探したい。

 ──でも、そんなの……。

 見つかるわけがなかった。


 ジュウは自分に恋心を抱いている。

 薄々感づいてはいたものの、向かい合おうとしなかった。
 そこから目をそらしていたかった。
 ジュウの好意を受け取れないと、わかっていたから。

 嫌いではない。
 友人としてとても大切な存在だと思う。

 だが友人として思う自分の心と、自分に好意を寄せているジュウの心が、すれ違ってしまい交わることがない。


 ゼンは思い切り木刀を振り上げ、汗を散らした。
 息が荒くなり自然と腰がおれる。
 気の遠くなりそうな回数を一番に終わらせて、しばらく周囲の素振りを見つめていた。

 息が整いはじめると腰をあげ、ふらふらとしながら道場を後にする。
 ここのところいつも、誰より早く素振りを終わらせ、紅葉を眺めるのが癖になっていた。

 あと数日を経れば今ある葉も落ちて、北風が通るだろう。
 屯山の冬は雪こそ降らないが、身が縮めてしまうほどに寒い。

 寒風の吹く頃、ひとり凍えるのかと思うと、紅葉から視線が落ちた。

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