華信(仮)
□第十一話 千色紬絲
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そこから先は、どうしてそうなったか知れない。
薄ら程度には覚えているが、改めて思い出すと頬が熱を帯びる。
気がつけば伸ばした手はチナの頬をかすり、顎をつかみ、暗闇の中で確かめるように指でなぞってから、チナの言葉も聞かず唇を合わせた。
多少の抵抗が、あったような気がした。
けれど腕に力をこめればすぐにチナの力は抜けていき、思う存分にその身体を腕で包みこんでやれた。
──欲しい。
ひとたび火の点いた心は一所を目指して走る。
なぞればなぞるほど、甘い声が微かでも響くほど、チナを包み込んでやりたいと想う。
──腕でつつんで……。
何もかもが初めてのような気がしていた。
実際は何度も経験していることなのに、どうしてこんなにも早鐘が聴こえるのだろう。
──愛おしい。
何度も接吻の時雨を落とした。それでも足りない。
もっと、もっと。いくらでも、もっと。
鐘音も、チナの嬌声より影響をもたらさず、滾りきった想いも、歯止めを聞かずに息切れが暗闇に谺した。