華信(仮)
□第十一話 千色紬絲
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「……半分しか血がつながっていないけれど、兄様はよく祇豪に来ていたの」
ゼンはまだヤジに縛られるのだろうか、とため息をつき思った。
──ヤジは死んだのに。
うつむくついでに唇を噛む。そして口を開いて問うた。
「どうして兄だと」
「兄様が言ってた。私もきちんと調べていないから、もしかしたら血がつながっていなかったかもしれない」
「今、半分血がつながっていたと言ったじゃないか」
「兄様がそう言っていただけだから」
別段、ふざけている内容とは思えない。
けれどできれば信じたいとも思えなかった。
「それで?」
苛立ちをこめ、話を急かす。
チナは険しい顔つきで、衣をたぐりよせながら言った。
「……ゼンは、兄様を慕っていたでしょう。ジュウ様も、きっと……」
確かめるように聞かれ、ゼンは頷きもせずチナの言葉を待った。
「兄様は、殺された」
いつ聞いた話だろう、とゼンは天を仰いだ。
「音星でちょうど千里眼を持つ人が生まれたの。偶然とは思えない。祇豪もどこかおかしかった。
まるで負ける戦のようだった……。音忍の到着も異様に早かった。
魔眼が取られるより先に、敵軍は退いた。
……兄様が死んだ、すぐあとに」
ゼンは装束に身をつつみ服装を整えると、床に散らばっていたチナにも衣をかけてやった。
「兄様は殺された。絶対、そう」
「……だからどうした」
チナは目を細め、責めるようにゼンの肩を揺する。
「……おかしいよ、この国」
「元からそうだ」
ゼンの冷たい言葉に衣をぎゅっと握りしめる。
チナは眉を八にしながら、問いかけた。
「ゼンは、兄様を慕っていたんじゃないの…………?」
ゼンが重い扉を力いっぱいに開けると、辺りはもう蔵と差がないほど黒に帯びていた。
「……ヤジは死んだ」
開けたまま、ゼンは外に足を一歩踏み入れた。
秋風が冷たさを乗せて脇を走り抜ける。
「憶測はもうたくさんだ」
深いため息のあと、チナを見やる。
そのまま帰ってしまうのかと思っていたチナは、促すような瞳に首を傾げてゼンを見上げた。
首の傾げに手招きで急かされ、衣に袖を通してから外に出る。
今まで行為のあとに共に帰ろうなどと促されたことは、一度となかった。
それに明らかに不快を示した会話のあとで、こんな風に接してくれるとも思いはしなかった。
もうこれで関わりは絶たれるだろうと、経験から予想していたのに。
「……忘れ物ないよな?」
聞かれ頷くとゼンは扉を閉めた。
じんわり、チナの胸の内に芽が咲いていく。
手を握り互いの体温を確かめる。
やがてそれは同化し、心地の良い温かさとなって見えない糸を細かに糾っていった。
●NovelーLine●
.。StoryS。.