華信(仮)
□第八話 時線たどり
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蒼空を炎陽がさえぎるようにして照りつける。
じりと射される焼きつく暑さに、雑巾を持つ腕先から汗が滴った。
気づけば今拭こうと目を走らせた縁の上には、自らの雫が跡をつけている。
周囲を見回せば、三人ほどが同じ場所を往来し、掃除の意味もないように思えた。
すくっと立ち上がり、踵をかえす。
そうして水場へと向かうも、あまりの熱れに嫌気がさしてまたも踵をかえしてしまった。
人のいるところいるところを避ければ自然、外へ向かうこととなる。
ゼンは草鞋を履き、ろくに何も持たずして中央玄関をくぐった。
袖を短く切った衣からは、肌の焼ける音が耳を通らずに聴こえてくるようで、道中思わず腕をさする。
ここから少し離れたところに、大きく開けた草原が広がっている。
草のおおい茂った平地は主に試験の場として使われていたが、別段、この時期に試験があるわけではない。
となると、自主訓練に最適な場所であったが、この炎暑、そうも人がいるわけがなかった。
ゼンはニ、三人ほどしかいないのを眺めると、胸をなでおろす気分でため息をついた。
祇豪の者たちが来てからというもの、広いと感じていた寮内でさえ狭く、それでいて異質な風を吹かす祇豪の忍、または納まらない喧騒、とにもかくにも居心地が悪い。
ここまで自分の故郷といえる里にいることが苦痛になるとは思いもしなかった。
唯一の休日でさえ、こうして人のいないところを選びに選んだのは、こういう理由にある。