華信(仮)
□第十二話
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侘しさが隙間吹かし、風にこごえて身がすくむ。
枯れ葉ひとひら落ちるさまは、とても寂しく目に映った。
長月を迎え齢がひとつ嵩んだ。
それからひとつ季節が変わり、師走にさしかかった頃。
同性同士の性技はジュウの計らいか、神無月にあるはずだったものがなくなった。
上忍に位置するジュウには、性技を延期する権力がある。
ゼンが避けられるのは相変わらずで、もう会わずにいて三月を過ぎていた。
けれどジュウから目をそらせる椿の花が、ゼンの瞳には映じられている。
ふいに眠りにつく前、ジュウのことを思い返したりもするが、胸の中は椿により春が呼ばれ、芳しく香りはなつ。
ジュウがいない分、チナにのめりこむのも早かった。
いつものように空き部屋を確保し、二人密かに笑いあう。
一日の中でこの瞬間が最もの楽しみだった。
どれほど短い時間でも、どれほど長い時間であろうとも、別れは惜しく身は離れることを拒む。
共に一緒にありたいと思う。言葉を交わし、触れ合い、手をつむぎ、見つめあう。
これが恋でないならば、はては愛か、夢現、どちらであろう。
ほんのりと灯された魔眼から放たれる光が、チナの頬を照らしていた。
「……もうすぐ私の誕生月」
え、と頭を起こし、ゼンが言葉なく問いかける。
魔眼を手で転がしながら、チナは微笑みながら答えた。
「睦月なの」
「俺は長月だよ」
「知ってる」
やわらかな笑顔で応えるチナに、ゼンも自然と笑みがこぼれる。
「もう二十一……」
「俺と四つも違うのか」
肘をつき頭を支えながら、暗闇の集まる天井を見つめつぶやいた。
「……兄様は二十七ね」
チナの一言に、ゼンは目を細める。
初めて身を重ねた後に話したきり、ヤジの話題は二人の間に交わされはしなかった。
なんとなくチナがヤジの話を避けている気がしていたので、ゼンは何も言わなかったのだが。
──ヤジのことを疎ましくなど思っていなかった。
ただ、解せない点が多すぎる。
答えのない疑問だけが増えていくのは、とても気分が良いものではない。
死者をいつまでも生きているように考えて疑問の紐を解くのも、精神が磨り減るだけである。
何より、ジュウのことが一番気にかかっていた。
そして、ヤジのことを考えると、必然的にジュウを思い出し、悶々とした気が湧き出てきてしまう。
──逃げだ。
逃げていたい。
逃げ場所にチナを選んでいるわけではない。
チナとの時間を大切にしたいと思うから、そちらに蓋をした。
そう心に言い訳を落としながら、毎回チナと身体を重ねている。
──でも。
もうその言い訳もしたくない。
それほどにチナが愛しい。今はチナと二人だけ。それが願いだった。