華信(仮)

□第十二話 
1ページ/5ページ

 侘しさが隙間吹かし、風にこごえて身がすくむ。
 枯れ葉ひとひら落ちるさまは、とても寂しく目に映った。


 長月を迎え齢がひとつ嵩んだ。
 それからひとつ季節が変わり、師走にさしかかった頃。


 同性同士の性技はジュウの計らいか、神無月にあるはずだったものがなくなった。
 上忍に位置するジュウには、性技を延期する権力がある。
 ゼンが避けられるのは相変わらずで、もう会わずにいて三月を過ぎていた。

 けれどジュウから目をそらせる椿の花が、ゼンの瞳には映じられている。

 ふいに眠りにつく前、ジュウのことを思い返したりもするが、胸の中は椿により春が呼ばれ、芳しく香りはなつ。
 ジュウがいない分、チナにのめりこむのも早かった。

 いつものように空き部屋を確保し、二人密かに笑いあう。
 一日の中でこの瞬間が最もの楽しみだった。
 どれほど短い時間でも、どれほど長い時間であろうとも、別れは惜しく身は離れることを拒む。
 共に一緒にありたいと思う。言葉を交わし、触れ合い、手をつむぎ、見つめあう。

 これが恋でないならば、はては愛か、夢現、どちらであろう。


 ほんのりと灯された魔眼から放たれる光が、チナの頬を照らしていた。

「……もうすぐ私の誕生月」

 え、と頭を起こし、ゼンが言葉なく問いかける。
 魔眼を手で転がしながら、チナは微笑みながら答えた。

「睦月なの」
「俺は長月だよ」
「知ってる」

 やわらかな笑顔で応えるチナに、ゼンも自然と笑みがこぼれる。

「もう二十一……」
「俺と四つも違うのか」

 肘をつき頭を支えながら、暗闇の集まる天井を見つめつぶやいた。

「……兄様は二十七ね」

 チナの一言に、ゼンは目を細める。
 初めて身を重ねた後に話したきり、ヤジの話題は二人の間に交わされはしなかった。
 なんとなくチナがヤジの話を避けている気がしていたので、ゼンは何も言わなかったのだが。

 ──ヤジのことを疎ましくなど思っていなかった。

 ただ、解せない点が多すぎる。
 答えのない疑問だけが増えていくのは、とても気分が良いものではない。
 死者をいつまでも生きているように考えて疑問の紐を解くのも、精神が磨り減るだけである。

 何より、ジュウのことが一番気にかかっていた。
 そして、ヤジのことを考えると、必然的にジュウを思い出し、悶々とした気が湧き出てきてしまう。

 ──逃げだ。

 逃げていたい。
 逃げ場所にチナを選んでいるわけではない。
 チナとの時間を大切にしたいと思うから、そちらに蓋をした。
 そう心に言い訳を落としながら、毎回チナと身体を重ねている。

 ──でも。
 もうその言い訳もしたくない。
 それほどにチナが愛しい。今はチナと二人だけ。それが願いだった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ