華信(仮)
□第十三話
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きんとした寒さを抱いた風が、ただ一点から吹いていた。
室内の温度との差が酷く、湿気あるものとないものが交わる先にいるのは、心地が良い。
薄らと開いた眼から見えるは天井に吊るされた魔眼。
やんわりとした光を放つ魔眼がまぶしくて、思わず開いたまぶたをまた閉じた。
「……起きたか」
その様子を横から見ていたギンジが、膝に腕を乗せながらつぶやくように言った。
声に驚きまぶたを開くと、やや疲れた風なギンジが目に映る。
「……お前も死んだらどないすんねん」
はあ、と大きなため息をつき、ギンジは手に持っていた手拭で額を拭いた。
その仕草を眺めていると、ギンジの手が自らの右手にそえられていることに気づく。
「もう、ええか」
ギンジがその手をぱっと離すと、何かが一皮はがれたように感じ、途端に嘔吐の波が襲ってきた。
慌てて口元をおさえるゼンを見て、ギンジも慌てて離していた手を元に戻す。
するとまた一皮に覆われたように、身体が温かくなり嘔吐の波も退いていった。
「まだ、あかんか……。俺が倒れてまうで」
先ほど拭いた額からは、また汗が滲んできている。
嘔吐感の引いた顔つきで、ゼンはぼんやりとギンジの顔を見つめた。
「……なんや」
何か喋ろうと口を開くも、思った以上に口が開かなかった。
声を出そうにも枯れてしまって出そうにない。
「無理すんな。寝ろ」
ギンジが促したので、ゼンはまぶたを閉じる。
その様子を一瞥し、ギンジは深く息を吸うとゼンの手先に向かって意識を込めた。