番外編とか
□華
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部屋の四隅の一角に、膝を抱え一点を見つめたままの少年が、虚ろな瞳で座り込んでいた。
遠くで自分を呼ぶ声がするも、少年は微かに震える肩でがっしりと膝をつかみ、そこから去る気配を見せない。
やがて近寄ってくる声に、少年はぐるりと項をまわした。
ぱっと立ち上がり、違う場へ逃げようと襖に手をかける。
「……お、っと」
開けた途端、目の前が暗くなったのに少年は驚き顔をあげた。
見上げた先にはあずき色の装束を纏った青年が立っている。
青年は疑問に首を傾げながら、赤い瞳を向けていたが、ふいに奥から現れた男の姿に瞳を移した。
それにつられて少年の首も背後を振り向く。
「こんなところにおったんか」
「厭や!」
訛りの入った口調からして、忍者ではなく他の業についている者だとわかる。
青年は確認するように少年に目を移し、続けて男を見る。
「……そこまで急がなくても、良いのではないですか?」
「なんね、たかが下忍が意見申すと?」
青年はしがみついてくる少年を一瞥し、もう一度顔をあげる。
「無理に連れていっても、行った先で駄々をこねるだけでは」
「そんなん言うけどなあ兄ちゃん、遅れたらどないしてくれるん。
怒鳴られるんはこっちなんやで。やっと生まれた男児や。やらなあかんことは仰山ある」
最後の一声に、装束をつかむ少年の拳がさらに強く握られた。
青年はその言葉に含まれた意味を理解したようにまぶたを伏せると、一歩進み入って膝を折った。
その場にぴたりと額を押し付け、手を添えて懇願する。