番外編とか
□奇夜
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抱き寄せられた時の淡く燃え滾りをみせた心。
引き裂くのは決まりきった運命ごと。
深く息を吸いながら、刃を指でなぞった。
──……。
さまざまな想いが巡るのに、それを心の中でさえ言葉として紡ぐことができない。
雪荒ぶあの日。
友人が一人土に還った。
誰の腕とも言わず、もちろん自分の腕の先からである。
あの白い景色が幻ではないかと思うものの、雪に映える鮮血は現を感じさせ、だから幻にすることもできやしない。
混沌とした中で、無意識に目は彼を追った。
以前まで仲間だった者たちの倒れている姿。冷たいものが胃に沈む。
「……ヒサ」
息切れする喉奥が、ちりちりと焼けていく。
視点定まらない瞳は亡骸の姿を一目で見分けにかかる。
やがて一点に定まると、身ががくりと雪の中に落ちた。
──ヒサ……。
ぎゅうと冷たい雪を拳でにぎる。
赤く帯びた手のひらが、ヒサの温かな背を恋しく思い、悲しく感触を失わせていった。