番外編とか
□現の獄
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ひらりひらりと落ちるは雪花。
ゆらりゆらりと映すは仄かな灯火。
ぼんやりと広がった橙の灯りの中、少女とも見れる華奢な少年が、いくらか年上の青年の背後で包帯を握っていた。
「ほんに地獄う言うんはこの世のことよ」
包帯で目元を隠してやりながら、少年は首を傾げた。
まるで見えているかのように、包帯を巻かれている青年がはは、と笑む。
「まだお前にゃわからんくて当然じゃ」
「なんやようわからんけど知らんくてええことのほうが多いんじゃろ?」
一拍間を置いてから、青年は何か言いかけて口をつぐんだ。
少年は口をヘの字に曲げて、青年の包帯を巻き続ける。
──地獄……?
今日はおかしなことを言うものだ、と少年は眉をしかめながら包帯を締めた。
「……これでいい?」
「ああ」
こくり頷いた青年の顔面には、眼を中心に何重にもして布が巻かれ、物が見えないどころか光さえ届かないだろうと思えた。
けれども青年の腕先は、まるですべてが見えているかのように動く。
「寝ろ」
乱暴に手首をつかまれ、敷かれた布団上に身を転がされた。
いとも簡単に組み敷かれた場から、少年は不安げに眉を寄せる。
「今日は何をするの」
「お前は何もしなくていいんだ。言うこと聞いてりゃいい」
「そうじゃなくて……」
悩ましげな表情を残す少年に、青年は口角をあげ笑う。
「そうじゃなくて……」
──怖い。
幾度迎えればこの震えが止まるのだろう。
ぼう、と意識薄れる頭の中考えた。
軋みを見せた車輪の音が、耳元に谺する。
弾かれた音は、やがて確かな痛みとして胸の内に残っていった。