番外編とか

□鈴華
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 暮れる刻に紛れて枯葉に埋もれ行くのは
 何処にありしその姿...




「暮れる前に帰ってこい」


 もう、わかりきっていた。
 渡された荷は子供の背に重くのしかかる。

 苦苦しい表情のままそれを背負った女児はもう、光を見ることをやめていた。

 暗い。
 とても暗い。


 何時の刻だろうと変わらず暗く見えるのだ。

 それでも…………。


 それでも彼女は、「帰ってこい」という言葉に一つ淡い気持ちを抱き歩む。
 求められれば、差し出したい。

 決して笑みはくれないだろうとわかっていても、“もしかしたら……”。
 足を進めるのは、ありもしない、あってほしい願いが故だった。


「あんた、お腹減ってんじゃないの。だいじょうぶ」

 顔の肉がたれた中年の女性が、きつい目をそのままに問いかける。

 場所は自宅から二里離れた小さな町、磐修。

 女児は擦り切れたわらじ、土で汚れた薄い着物を秋口でも夏場のごとく着ている。
 顔立ちは悪くない。
 骨と皮の手足であることは見て取れたが、きちんと食事を取ればなんとかなるだろう。
 五歳の頃から彼女を見ているが、どんなに陽を浴びようと簡単に肌は焼けない。
 外に出なければ白さは際立っていくだろう。


「おばさんが、面倒見てやろうか」

 女児は瞳をきり、とさせ、警戒しているのか退いた。


「警戒してんのか。あんた、何歳さ」
「…………九歳」
「なら奉公先でも探した方が今よりまだ良い暮らしができるよ」


 女児は荷がすべて運ばれたのを見ると、手を差し出した。

「そんなこといっておばさん、私を売るんでしょ」
「売られるのが嫌なのかい? 私には今のあんたと何が変わるのかわからないね。あんた、いずれ売られるだろうとも思わないのか」

 じゃら、と手の上に出された硬貨を数える目が、ぴたと止まる。

「……売られるわけないじゃない……!」
「残念だけど確実に売られるよ。あと三年もしない内にね。あんたの家、こんな商売してるけど金二枚でももらやあ好きに遊べるだろうしね。
 娘にここまで運ばせるってことをしてるんだ。あんたは金づる以外の何でもないんだよ。良い頃に売っちまえばそれで終わりさ」


 硬貨をすべて数え終えた女児は首から提げていた袋にそれを詰め込むと、興奮しながら背を向けた。

 中年女性はその後ろ姿を笑いながら見送る。

「行動すんなら今のうちだよ! 私のコネで良い所で働かせてもらえるかもしれないんだ、考えときなー」

 中年女性が大声でそう伝えると、女児は振り切るように走り出す。


 夕刻を迎えた空は赤赤と茜色に染まり、紅葉がひらりと落ちては土に積もる。

 木々の覆い茂る中、枝に背をもたげ、女児の泣き顔を眺めてる少年は、小さく溜息を残した。
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