華信(仮)

□第五話 不切絲
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 ふと気付けば女は見せたこともない幼顔で眠りへと落ちていた。

 あと幾日こうした夜を迎えれば、同じように眠りへと走っていけるのだろうと思う。

 月の翳りは記憶へと誘いはするが、眠りへとは導いてくれない。


 あの雪山の惨事から、自分と同年の者たちも憂いに満ちた瞳で年下の者を眺めていた。

 あと数年を迎えれば彼らも同じ道を通る。

 今在る彼らの心を妬む気持ちと、憂う気持ち。

 戻れやしない足先と、遠い明日を見つめることの怖さ。


 様様な想いが廻り廻っては涙を誘う。

 未だ抜け出せぬ泥濘から急いで這ってこいと言ったのは長だった。


 また召集がかかったのだ。

 誰もが息を飲み、指を震わせた。

 なのに自然と足は歩み、皆が皆からくりのように長の下へと向かう。

 洗脳の気を帯びた彼らには操りさえも気付きはせずに、無理にでも足は上がり腕は空を裂く。


 訓練用の道場の庭先にて、自己のことをも把握しきれない面々に、長の鋼鉄な表情が向けられた。


「男女に分かれてくじを引け」


 ざわ、ともしなかった。

 眼は泳ぎじわり殺気が地を這うのがわかる。


「里でわざわざ争いをさせるわけがなかろうが」


 その様子に口元をゆがませながら、長が急かした。

 前と同じ、ジュウは長の後ろにただ立っているだけ。

 ゼンの視線を避けるようにして、まるで隠し事をしているようにこちらを向かない。

 全員が促されくじを引いたところで、長が顎先をくいと前へやった。

 それを合図に赤の紙を開くとまたも数が書かれていた。


「……来週から月に一度、性技の授業をはじめる。己らの引いたくじと同数の異性と組むこと。

 その後ジュウを介して相手の変更を許す。授業は一般に上忍の付き添いではじめる。

 詳細についてはその場の上忍に説明を促すべし」


 少なからず漏れた驚きの表情を見ずにしてもう二つ、木箱を取り出す。

 ジュウが片方を持ち上げ、長が片方を持ち上げた。


「ジュウに男、我に女、分かれてくじを引け」


 先ほどとは違う緑の紙を引き終わり開いてみると、同じく番号が振られていた。


「三月に一度、同性との性技も授業に含まれる。くじと同数の者と組むこと。

 先刻のものと同様に、ジュウを介して相手を変えることを許す」


 周囲が息を飲んだのが、微かだがわかった。

 専攻している者だけが、まったく驚きを示さずにいた。


「どちらにしても、私情をさしはさむことのないよう。規定の点に満たない者は仕置きを覚悟すること」
「採点なさるのですか」
「もちろんだ」


 厭厭な顔をした女子が、即答した長にたじろぎ顎を引く。


「まず異性との組を確かめること。一から順に並んでみせろ」
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