華信(仮)

□第十三話
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 翌日、小鳥の囀りに目を覚ますと、手を握っていたのはギンジではなかった。

 ──久しぶりだ。

 久しぶりの、ジュウの姿だった。
 相変わらずの美しい手で、ゼンの手を握っている。
 身体はすぐ傍に横たえられていて、無防備な寝顔はやはり男子を思い立たせた。

 身体が動きそうなのを確認してから半身を起こす。
 かけられていた夜着をジュウにかけてやり、手をそっと離した。

 その瞬間、閉じていた眼がかっと開かれた。

 ゼンは少し胸をどくりと波立たせながら、起きたジュウを見つめる。


「あ……」

 つぶやき何か言おうと思ったのに、それを遮ったのはジュウの身だった。
 首にまとわりつく腕の感触が、酷く懐かしく思える。

「……よかった」
「うん、ごめん」

 言って腕を離そうとしても、ジュウの腕は一向に動かない。
 嫌な予感が張り巡らされた。
 ぴんと張った糸が一本、頭に浮かぶ。

「……ジュウ」

 嫌な予感はその後も続いた。
 が、前のように急に行為をするなどということは無いように思えた。

 時が経つにつれて、きっとジュウが自分に制止をかけているのだろうとわかる。
 ゼンはその背に手を乗せると、静かにささやいた。

「……ジュウとは友達でいたい」
「会えなくて、つらかった」
「うん……だから、もうそういうの、やめよう」

 でも、とジュウは泣きを含めた声色で口ごもる。

「……嫌なんだ」
「何が?」

 眉根をひそめ、ゼンは問う。
 小さく嗚咽をもらすジュウが、可哀相で仕方ない。
 それを救ってやりたいと思いはするが、原因は自分で、救ってやれそうにもなかった。
 無力さに手が弱く拳をつくる。

「ゼンが他の奴といるのが嫌だ」
「……チナ、か」

 こくりと頷いた。
 ジュウはどうもチナが気に入らないらしい。
 レンリは許しても、チナを許す気はないようだった。
 そもそも、ジュウに了解を得なければならないというわけでもないのだが。

「どこが気に入らない」
「……あの女、ヤジに似てるから」

 一瞬、息が止まった。

 ──ヤジ。

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