華信(仮)
□第十五話 ──ゼン完結
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「ギンジが花弁を……」
ジュウに会ったのは、その夜のことを問いたかったわけでも、ギンジについてあれこれ言うつもりでもなかった。
「思い入れの強い花を、舞わせること。ギンジにはよくあることだ。感情の起伏が激しいと、どうしてか」
その言葉を聞き、さらにゼンは心をぎゅうと掴む気持ちになった。
「そんな術もあるのか」
「知らない……どこから降らせるのかすら……。それで、話は……これだけ、ではないよね」
ジュウにもゼンの緊迫した雰囲気は伝わっているらしく、苦々しい表情だけが残る。
ゼンはあの舞った花弁を思い出し眼を閉じると、俯いた。
「……これきり、会わないようにしよう。ギンジのもとに、行ってやれ」
言い終わるのを待たずに、ジュウが首元に手を伸ばす。
強く抱き締められる躯を、精一杯に引きはがそうとするのに。
何故なのだろう。どうして。
──強く、引き離せない。
離そうとすればするほど、絡む絲から逃れれば逃れるほど、絡まっていく。
「……いやだっ! なんで、なんで……なんでギンジなん」
「小姓にでもなれ。ギンジと共になら許可もおりるだろ」
強く言い放ち、やわい躯をやっとのことで離した。
ジュウは瞳に涙をため、すがるような瞳でこちらを見つめる。
「なんで……好きな奴となんでおれないん! おれの気持ちなんかみんな知らん! おればっかり……」
「……なら! なら何をすれば救われる! お前こそ、俺の気持ちを知らないやないか!」
「チナがいてもええ! おれのことは後でもええ! だから、だから離れたくなんかない!」
「それじゃあお前も俺も救われないんだ!」
足早に泣きすがるジュウを置いて去った。
どこへでもいい。どこへでもいいから、とにかく此処から逃げたい。
意識が朦朧としながら、ゼンは術をつかった。
躯が一瞬にして平原へ。やわらかな風がすり抜ける。
あの日見た、ヤジとジュウと三人で見た、夕陽が辺りを赤く染め上げる。
涙が一筋、頬を伝った。
その場にがくんと躯が落ちる。
自分の中に在る何かも──音を立てて落ちた。
耐えきれない悲しみに乗せて、溢れ出す涙。
どうして涙が流れるのかがわからなかった。
ただ大切な人を傷つけたことに、胸が傷んだ。
きりきりと、心をむしばむように、絲に締め付けられるように、痛んだ。