中篇

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「…血は止まったみたいだね」

ウキョウの手に握られているハンカチは真っ赤に染まっている。
あの踏切から近くにあった、ザリガニ公園のベンチに座らされ、ウキョウの指示で私はただじっとしていた。


もう何度繰り返したのだろう、公園の水道で血に染まったハンカチを洗いに、ウキョウは席を立つ。
その間もおとなしく、じっとしていろと釘を刺され、私はその公園を見渡した。

―――懐かしい。


小さい頃はよく、シンとトーマと一緒に遊んだ場所。
いつ、どんなときだって2人は私を助けてくれた、大切な幼馴染。

だから、何百回も世界を移動しようと、2人に会うと変な罪悪感が生まれる。
だからこそ思い出の詰まっているこの場所はあまり好きではなくなった。


「今から病院、誰か付き添ってくれる人は居る?」
水洗いを済ませたウキョウは、ベンチに戻ってくるなりそう言った。

「え――あ、えっと…大丈夫だから…」
付き添ってくれる人なんて、この世界に居るはずもなく、だからといって呑気に病院になど行っている暇はない。
ていうか保険証とかないし…。
そんな言葉が自分のなかを渦巻いていれば、ウキョウは突然叫び声にも似た声を上げる。


「駄目です!確かにちょっとした切り傷だったけど…もし何かあったら大変だし、傷が残るのもよくないからね」

「…………」

突然のことで、言葉が出てこなかった。


どうして――


「俺と一緒は危険だし…うーん…」


どうして彼は、私を知っているように、あの幸せだったときのように…優しくするの――?


「あの、私…ちゃんと病院行くから、大丈夫…」
「ほんと?」

「う、うん…」


ぎこちなく返事をすれば、ウキョウは「そっか、わかった。それじゃあ俺は行くから」と微笑んで公園を出て行った。



そうは言ったものの、残念にも私には病院に行く気は端からない。
ウキョウに嘘をついたと思うと、少し胸が苦しかった。

「…ルナ、ウキョウ、少し変だったね」



ルナはそんな私の言葉に何も答えなかった。


空を見上げれば、夜の暗さが空を包み始めていて、ぽつぽつと星が覗く。

大きく浮かぶ月は、私を照らした。



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