中篇
□03
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周囲が騒がしい。
せっかくいつもよりはマシに睡眠を取っていたのに、これでは台無しだ。
「こんな時間にこんな場所に居るなんて、誰を待ってるんだい?姉ちゃん」
「バカ、そんなの“俺達”に決まってんだろ」
その言葉の後に数人の笑い声が響いた。
騒がしさに瞳を開けば、見知らぬ男性の集団が私を囲んでいた。
この光景は別に珍しいものでもなく、仮にも女性である私が真夜中に外にいれば、絡まれる事は度々あった。
しかし、この状況はなんだろう。
此処は、真夜中の神社だ。
私は睡魔に負けて、鬼心母心神社の奥にある、見つかり辛く、幾度の世界の中で特等席と化した木に身を隠して寝ていたというのに…。
(いったい、この人たちはこんな時間にこんな場所に、何をしに来たのか…。
というか、よく私を見つけたな…)
呑気にそんな事を考えてはいるが、状況は思ったよりも深刻。
なんせ、囲まれているためにいつもはあるはずの逃げ道がない。
そして、どんなに助けを求めようとも、深夜の神社に人が訪れるなんて、期待するだけ無駄だ。
男の手が私に伸びる――
「る…ルナ……!!」
反射的に、私はその名を叫んだ。
どうしようもない状況下、いつもルナが助けてくれる。
だけど、今回はルナが私を助けてくれることはなかった――
「ぐはっ…!」
「だ、誰だ!?」
鈍い音が何度も耳に届く。
私を囲んでいた男たちの悲鳴が聞こえなくなったとき、慣れた血の臭いが鼻に届いた。
「オレの―――に、手え出すからだろ?」
何を言っているのかは上手く聞き取れなかったが、私はこの声を知っている。
「ウキョウ!」
ウキョウが助けてくれた――!!
そう思うだけで胸が熱く跳ねる。
だけど、少しだけ私の知らない彼を見ているような気がした。
その背中に名前を呼べば、彼はニッと口角を吊り上げながら振り返る。
その身体は血に濡れていた。
「久し振りだなァ、シア」
「…ウキョ、ウ?」
思わず疑問を投げ掛けるが、目の前にいるウキョウは、私の首に触れた手に力を入れながら、笑った。
首を絞められているのもお構いなしで私は狂気を渦巻かせるウキョウの瞳を見て言った。
「ウキョウ、よく聞いて。そこにある井戸…凄く危ないから、気を付けて」
「あァ、よーく知ってるぜ?さっさと埋めちまえばいいのによォ…」
「えっ…」
どうして、ウキョウがそんなこと…
「シア、おまえ、そこの井戸に落ちたことあるか?」
「っ!?」
「落ちたら助からねェんだよなァ。底なんてモンはねぇ。どんどん身体は沈む。壁は苔で滑って這い上がれないしよォ…もちろん、叫んだって誰も来やしねェ」
――ウキョウは、なにを、言っているの…?
首を絞める力は、かなり強い。
苦しい、痛い。
何より、意味も解らなくウキョウにこんな事されている現実が一番の苦痛。
「…私を、殺すの?」
唐突に出た言葉。
それに対し、一瞬ウキョウの手が緩んだ。
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