月光の雫

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「おい、リリ」


これでもか、というほど溢れる滑らかな白い生クリーム。
甘そうで血を連想させる赤いイチゴ。
他、色とりどりのフルーツ。

それらを覆い隠すように乗せられた、いろんな味のアイス。
その上に無造作に差さる無数のポッキー。
大きく、深い器の底にはプリンとカスタードクリームが敷き詰められている。


そんなリリが特製パフェと愛を確かめ合っていれば、ひとつの声によって邪魔が入る。

が、リリ本人はその人物に一瞬目を向けただけで、すぐに食べかけのパフェに視線を戻し、一時的に止まっていた手を動かした。




「無視かよ…ま、いーや。んで、お前にクイズを出してやるよ」
声の主、アヤトはそう言いながらパフェを口いっぱいに頬張るリリの傍までやってくる。


「へー…暇なんだね」

「暇だから遊びに来てやったんだよ。光栄に思え」

「いや、なんていうか、迷惑?私はアヤト兄と違って超多忙。みたいな?」

多忙の理由はパフェを食べることであり、リリはスプーンを口に運ぶことを忘れずにしれっと返す。


「ウッゼェ…」

「ま、いーや。私もちょうど、パフェと戯れるだけ、っていうより何か芸でも見たかった、っていうか。暇だったんだよね。聴覚が」


「はっ、けっきょく暇なんじゃん」

「いや、聴覚だけだよ。誰かサンと違って全身ヒマじゃないから。聴覚以外は視覚も神経も全てパフェに注いでるから」

「チッ…可愛くねー妹だな。つーか、お前のパフェに対する愛を語って、読者が喜ぶわけねぇだろ。愛なら俺に向けろよ」

「で、クイズってなに?」

無視かよ


リリがクイズを促したので、アヤトは重い溜息をひとつ吐き、クイズに入った。





「この世界で一番強いのは誰だ?」
「シュウ兄ちゃん」

そんなの考えるまでもない。という態度でリリは即答。
その場には一瞬、妙な空気の沈黙が流れた。


「はあ?バァカ、そんな変な冗談はいらねェンだよ」

「いたって真面目に答えたつもり」

「世界で一番強いのはこの俺様に決まってんだろ」


リリの言った言葉を無視してアヤトは自信満々にそう言った。
そんな痛いアヤトを見て、リリは口に含まれているクリームを飲み込んで口を開いた。


「じゃあリリちゃんからのクーイズ!ひゅーぱひゅぱひゅー。世界で一番バカ面してる赤毛はだぁれだ?はい!正解!!答えはアヤトでーす!」

「あ゛?…ふざけんなよ、てめェ…」

ほとんど棒読み状態でそんなふざけた事を淡々と述べれば、アヤトが怒ると解っていてやった事。
想定内のアヤトの反応にリリはただ面白そうに笑うだけだった。


手を出すに出せない相手。
それがアヤトの怒りを抑える行先を失わせるわけで、アヤトの中に溜まった怒りは時間が解決した。


それから不機嫌だったアヤトは、何かを思い出したように「あ、」と声を上げる。

それらを無視してリリが残り半分ほどになったパフェを食べ進めていれば、突然視界に現れるアヤトの両手。



「右と左の手、どっちにお前の好物が入ってると思う?当たったら可愛い妹にこのアヤト様から恵んでやるよ。ありがたく思え」

「好物?私の好物は今食べてるパフェだから。どーせアヤトがくれるモンって言ったら、ちっぽけな飴玉でしょ。あー、ほっんとちーせェ男だよね、アヤトって」


「ま、でも糖分は受け取っておくべきかな…。そのポケットの中にあるモン出せよ。このパフェに埋めてあげるから感謝しなよ」



「チッ…ほんと、可愛くねェ…。」
そんな悪態をつきながらも、アヤトはポケットに沢山入った飴玉をくれる。

その中の数個はご丁寧に包みを開けて、残りのパフェの中にばら撒いた。

リリの言っていたことをきちんと聞いてくれている証拠。



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