白黒な世界

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ニールと共に、俺は幾度となく世界を移動した。

もう何十…いや、何百という死を経験したか、わからない。
そして何度俺は最愛の人をこの手で――――




「お帰りなさいませ、ご主人様ー♪」

また世界を移動して、俺が最初に向かったのはここ。冥土の羊。
どの世界の彼女も、ここで働いていた。
にこりと微笑む笑顔は輝いていて、どこの世界でも、シンやトーマ、イッキ、ケント…みんなと仲良くなって、毎日が楽しそうで…。


「あっ!ウキョウさんじゃないですかー!お久しぶりですー!」

「うん、ミネ久しぶり…って言っても、一週間ぶりくらい…かな」

「もー、寂しかったですよ。今店長呼んできますねっ!会いたがってましたよ」


でも、この世界では違った。
彼女は、ここで働いている影はなかった。

それでも俺はいつものようにここの常連になり、ワカさんと話を弾ませる。

最後にここに来た一週間ほど前にさり気なく探りを入れて、ここで働いているメイドの名前を挙げてもらった。
それでも、彼女の名前がその中にあるわけでもなく、シア以外のメンバー全員だけが揃っていた。



この世界はおかしい。

移動してきてから、すぐにそう感じた違和感は、外れてはいないようだ。

異変があったのは、一番最初に行う、ニールと世界の移動をしたとき。
行った先の時間≠ェおかしかった。この世界の時間が。

予定していた月日より、遥かに以前に着いてしまったらしい。
ニールの力が弱っていようとも、こんなミスは初めてだ。
ニール自身、これについては原因不明だと言っていた。

だからどう、ってわけでもないから俺はその日から再びこの世界で彼女を探し始めた。



だけど、俺が知っているはずの住所も、携帯の電話番号も、メールアドレスも勤務先も…
どうしても我慢できなくなったとき、俺は何度か他の世界で、最後に彼女の声が聞きたくて、間違い電話さえも装った。

それでもこの世界は――
彼女に繋がらない全てが俺に絶望を与えた。


どこに行っても会えなくて、トーマが彼女を監禁している気配もない。

このまま、この世界でシアに会えないままイレギュラーの俺は世界に殺されるのかもしれない。


そんな思いが、俺の中を渦巻いた。





――――――――――――
―――――――



「うっわぁー!何これちょう美味しい!」

「うん、サワ、新しいお店とかチェックするの、意外と好きだよね」

「意外は余計だって」

新しく出来たカフェの一角でそんな他愛もない会話をしながら、完食したケーキのフォークをコトリと置いて、シアは本題を持ち出すのに口を開いた。


「それで、私に話って?」
「んぐっ…そ、そうそう…あんたさ、バイトとかしたら?いつまでも家に引き篭もってるのも、親友としては心配なの」


そう切り出すサワに、シアはため息交じりに言葉を紡ぐ。
「…嫌。私は別に、サワが居ればいい」

「ああ、もうっ!そんな可愛いこと言って!!」


「でも、ウチの店長が新しいバイトが欲しいって言ってて…面接だけでもしてみたら?」

「でも…バイトなんてやったことない…」
「ああ、それは大丈夫だって!みんな教えてくれるしさ!」

「あ、そうだ、厨房の人数がどうの、って言ってたから、そっち応募してみなよ。そうすれば接客業でもないから客と顔合わせなくてすむし、少しは気が楽でしょ――」


「というか、私がシアと一緒に居られる時間が欲しいだけなんだけどね」
あはは、と乾いた笑い声を零しながらサワが頭をかけば、シアは口に付けていたジュースのストローを離して遠慮がちに口を開く。


「わかった…」




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