白黒な世界

□04
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「――そう、で、アイスを乗せたらチョコを差す。それで完成。」

囁くように紡がれる言葉。
用事が終わり、後ろから伸ばされるイッキの手は私の身体を引き寄せた。
そして、更に近づいた耳に唇を寄せ、誘うように甘い毒を吐き出す。

「もう一度、教えてあげようか?」



「いや、いいよ別に。もう覚えたし」
イッキの作った甘ったるいムードはなんだったのか、イッキに抱きしめられている張本人のシアはしれっと返す。
普通の女の子ではあり得ないことだ。


「…そう?残念」

何故、今イッキに抱きしめられているかといえば、それはメイドの手作りパフェと名の付くメニューがこの冥土の羊に存在するからだ。
初めてフロアに出たあの後、「あの子は誰だ」という問い合わせが殺到したらしい。

だから店長はせめてパフェだけでも、と今こうしてイッキから指導を受けているのだが…。


「え……シア?」

そんな声を辿って顔を上げれば、お馴染みの2人姿が視界に入る。

「おはようトーマ。シンも」
「おはよう、シア」

シアが挨拶すれば、にっこりと笑ってトーマが返す。
シンは小さくこくりと頷いただけで、すぐにイッキに視線を向けた。


「で、イッキさんは何やってるんですか?新手の犯罪?」

「いや、違うからね、シン。やめてよ、そんな笑えない冗談」

「だったら、早くそいつ離して下さい。おい、シア、買出しからサワ、戻ってきてるぞ」


「サワ!?」
そんなシンの言葉に、シアはきゅぴっと反応を示す。
そうすれば、回されたイッキの腕を振り解く事に専念。
イッキは逃がすまいと腕に力を込める。


「もう、シンも言ってくれればいいのに」
「はぁ?なんでだよ。どうせすぐ会うだろ。現に、今日会ってるんだし」

シンがトーマに言い捨てれば、トーマは「ふぅん」と声を漏らしながら、ようやくイッキから解放されたシアの元へと足を進めた。

「メイド服凄く似合ってるよ、シア。」

「…んー…ありがと」
それだけ言うと、解放されたシアはトーマた達の存在自体を興味なさ気にサワの元へとさっさと消えた。


「…恨むよ、シン」
シアの消えていった扉を名残惜しそうに見つめ、イッキは恨めしげに言う。

「好きにしてください」


トーマが次に熱っぽく呟いたのは、シアがサワと戯れるべく、席を外した後だ。


「…やっぱ、可愛いね。厨房のときの制服も、あのぶかぶかさがいいって言うか…けっこう気に入ってたけど」

「なに言ってんだよトーマ。つかキモイ」

「でも、ほら…こっちのほうが色々クる、っていうか――」


シンの暴言をスルーして話を進めるトーマに、イッキが苦笑いしながら言葉を紡ぐ。
「トーマ、それセクハラじゃない?」

「あはは、面白いこと言うなぁ、イッキさん。でもどうせ、そう思ってるのは俺だけじゃないんでしょ」

「「…………」」

トーマの言葉に、シンとイッキは顔を見合わせ、一間空けてから口を開いた。

「まあね」
「……いや、オレは別に…」


「ワカさんの警戒が高まってるのも解るよ」
「あー…殺気立ってましたよね。あれ、逆に俺たちが被害受けそう…」



こうして男性陣の話は更に進んだ。

シンの意見をスルーして。


「…おい、オレも変態扱いのままかよ」



――――――――――
―――――――








「映画…?」
「そ。友達に貰ったんだ。なんせ、有効期限が今日までで、その友達予定入ってるみたいでさ。だから一緒に行かない?」

「うーん…」

休憩にやってきたトーマは、シアを見つけるなりにっこりと綺麗な笑顔でいきなり「今日、この後暇?映画行こうよ」との誘いを持ちかける。
普通の女性なら、こんなにカッコよくて面倒見もいい彼に誘われでもすればイチコロだろう。


シアはそんな魅力たっぷりのお誘いを受けるなり、眉を寄せ、顔を顰めた。


「なんの映画?」

「ん?嗚呼、それはさ、好きなの選択できる券だったと思うから…。シアの観たいやつで大丈夫だよ」

その会話が不自然に途切れたのは、シアの興味を持つような返事に期待したトーマがにこりと微笑んだときだった。


「なに、2人で今日映画行くの?オレも行く」
無関心そうに言いながら、シンは2人の間に割ってはいる。


「…はぁ、シン、お前ね…。悪いけど、券は2枚しかないんだよ」

「別にいいじゃん。オレ自分で払うし(トーマとこいつを2人きりになんてさせられるかよ…)」

「……………」

そんなシンの登場に、2人はシアを挟んで睨み合う。
妙な空気に耐え切れなくなったところで、シアは良い案を思いついた。


「ねぇ!良い事考えたんだけどさ、2人「「駄目だ(よ)」」……」
口を開き、本題を言う前に2人は息ぴったりにシアの言葉を遮った。


「どうせ、オレとトーマで券2枚使え、とかだろ……ソレじゃあ意味無い。つか、何が嬉しくてトーマと2人きりで映画行かなきゃならないわけ?」

「酷いなぁ、シン。小さい頃は俺の後ろくっついて歩いてたのに。…ま、でも今回ばっかりはシンの言う通りかな」



「…仕方ない、3人で行こうか。これ以上言い争っても仕方ないしね」
はあ、と大きなため息を付いてからトーマが言えば、その場の空気は和らいだ。

「すっげぇ気に食わないけど……先に誘ってたの、トーマだしな…」


「じゃあ、3人で行こうね。シアもそれでいいよね」


「…というか私、行くって決定なの?」


そんな私の意見を無視して、何故か2人の間には再び火花が散った。


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