短編

□Weakness
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「…ぃ……おい…起きろ!」

「へ…?」
先ほどから騒がしいと思い、完全に夢の中に堕ちていた主人公はようやく目を覚ます。

「まったく…勉強を教えて欲しいと言ったのは誰だ?」

「ごめん…」
眠りを妨げた張本人を目の前に、まだ上手く働かない頭を精一杯に動かし、現在の状況を把握する。


「まぁ、お前の寝顔は可愛かったがな…」

「だって、悠人の声、凄く落ち着くから眠くなっちゃって…」
悠人の低く優しい声が脳内に甘く響き渡る。それは揺ぎようのない事実だ。


「ふっ…ほんと、どうして主人公はそうやって可愛い事ばかり言うんだ。
これじゃあ怒れなくなってしまうだろう?」


「もうー何言ってるのっ!
悠人のほうが可愛いよー!!」
主人公はその言葉を聞くなり、ぷくぅと膨れながらこの歳の男性にとってはあまり嬉しいとは取れない言葉を口にする。


「はぁ…」

今は二人きりの生徒会室に悠人の溜息が響いた。
2人掛けの学校に不釣合いな豪華なソファにお互い隣同士で座っていたが、悠人が軽々と主人公を抱き寄せ、自身の膝にちょこんと乗せる。


「では聞こう、一体オレのどこが可愛い≠だ?」

「んーとねぇ…」
うーん、と顎に手を添え、考える素振りを見せる主人公。
そんな姿さえも愛おしく思っている悠人に、不意打ちのように言葉が紡がれる。

「そうやって、悠人が私を甘やかすところ、とか?」
にこりと微笑むこの笑顔は小悪魔以上の威力とも取れるだろう。
何より、心が見透かされているようだから尚更タチが悪い。



「あとねー、私が同じクラスの立夏と仲良く話してると、妬いちゃうところとか!」

何故こんなにも、というように主人公は次々と悠人の内心を言い当てる。
悠人のほうも主人公を理解しているつもりで、実際の所、主人公という存在は自分の中で特別で…
この学校でも、自分をこんなにも気軽に名前で呼んでいる者は恐らく主人公くらいだろう。


「それだけ解っているなら、わざわざ寅谷と仲良くする必要はないだろう?」

「えーそれは嫌だよ!立夏は大事な友達だし、ついでに嫉妬しちゃってる卯都木センパイが見れなくなっちゃうっ!」
主人公が悪戯そうに普段は名前なのにこんなときに限ってセンパイ≠ニ呼ぶ。


「…程々に、な…」

「うん♪」



惚れた弱みというのはこういうものを指すのだろうか?
どんな言葉もどんな仕草も愛おしくて、誰にも見せず、自分だけで独占してしまいたいとまで思う。


不意に主人公を抱きしめる腕に力が入る。
それに気づいた主人公の次の行動も、彼女にしかできない行動だろう、と心の奥底で思った。

「大丈夫だよー私が悠人を支えてあげるから!」
ヨシヨシ、と子供をあやすような手つきで悠人の頭を撫でる。

その感覚が妙に心地よくて―――


「嗚呼、ずっと一緒だ」


――勉学も、社会的必要要素も劣るであろう彼女だが、その存在はオレの中で確かに大きく、手放す事などできないと何度も確信的に嫌という程理解する。
主人公のそんな言葉だけで、充分すぎるほど支えられている気がする。

だから、これからも、ずっと―――・・




END








*おまけ*

「卯都木センパーイ?どうかしましたか?」

「…何故時々そう呼ぶんだ?」

「ギャップ萌え!…みたいな?」

「ぅ…(主人公萌え、の間違えだろうか・・・)」

「? 変な悠人ー」



卯都木悠人が新しく学んだこと。
それは――



惚れた弱みは恐ろしい≠ニいう事。





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