短編

□好きな食べ物
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昼休み、賑わう食堂。

昼登校をしてきたタクミ君に誘われ、そのままみんなで一緒に来たはいいが、隣に居るタクミはといえば、普段ではあり得ないであろう光景に目を疑っていた。


「何かの間違え、デショー…」

「いやいや!間違えじゃねぇよ!」

「ハァ…」
御子柴君のツッコミを重いため息で見事にスルーのタクミ。

「まぁ、仕方ないだろう。」

「ちょっとぉ?卯都木クンさ、生徒会長なんだから、もっと学食のエビフライ、増やしてくれない?
嗚呼、なんなら、オレ専用のエビフライ定食でも作ってよ」


専用ってなんだろう、と内心思ったのは私だけではなかったようで、奏矢や恭介の方向からツッコミの声が多数聞こえた。
当の本人はどうやら本気だったようで、変わらず悠人の返事を待つ。

「…専用、は無理だが、定食の数を増やす事については掛け合ってみよう。」

「さっすが卯都木クン。話が解るネ〜」
と言うものの、タクミは未だにエビフライ定食完売≠ニ掛かった札を恨めしそうに見つめる。

「じゃ、そーゆーコトでオレは帰って昼寝でもしようかな〜」

「ダメだよ!せっかく来たのに!」

「でも?エビフライ定食ないし〜?」

「うっ…」
これを言われては私も言い返す言葉が見つからない。
彼は恐らく、いや、絶対エビフライ定食のためだけにここまで足を運んだのだから。


「あー、でも、オレ、お腹空いちゃったなぁ…」

「じゃあ、なんか食べて行こう?ね?」

「そぉだねぇ…」

そうしてタクミの視線は主人公をじっと捕らえる。
それに気づいた恭介がいち早く主人公とタクミの間に入った。

「御子柴クン、邪魔しないでくれないカナ〜?」

「するに決まってんだろ!!」

「うーわぁ。怖ーい、ってコトで、じゃあマタネー主人公」

ひょいっと恭介を避けたタクミが主人公の傍まで行き頭を撫でる。

「帰っちゃうの?」
と寂しそうな顔をする主人公に、タクミが耳元で囁くように言葉を紡ぐ。


「エビフライ定食の代わりに、主人公を喰べようかと、思ったんだけど、みんながウルサイからまたの機会にするよ」

直後にペロッとその耳を舐め上げる。

「なっ!?////」

反応を楽しむようにクククッといつもの様に笑いながらタクミは食堂から姿を消した。



「まったく、タクミ君ってばいっつもずるいよ!」
「いや、ずるいとかの問題じゃない気もするんだが…」
「困った奴だな…」










+おまけ+




仕方ないので、タクミを除いたいつものメンバーでお昼を取る事になった。

相変わらず楽しいメンバーだ。
不意に、携帯が鳴った。ディスプレイに映し出されるタクミ≠フ文字。
「主人公ちゃん?どうしたの?」

「あ、立夏くん、タクミくんからメールが来たみたいで…」

「えー、今はボクと遊ぼうよー」

「遊ぶ、ってなんだよ!先に飯食え!」

「なんだよー恭介はボクのお母さん?」

「ははっ確かにそんな感じがするな」

「どこがだよッ!!」

「ふふっ…」
みんなのやり取りに自然と笑みが零れる。
これでタクミくんも居たらな、なんて考えてしまう…


私はタクミくんからのメールを読んで、再び笑みを零した。

本当に、このメンバーは暖かい場所なんだな、と実感しながら。                             



「主人公ちゃん?顔赤いけど、タクミくんからセクハラメールでも届いた?」

「う、ん…?」

「タクミめ…」
「さすがに許せないな」


こんな日常も悪くない。…多分。


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