短編

□眠れる森の〜<パロ>
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眠れる森の美女




主人公が眠り続けて、早くも267年が過ぎた。


寝顔さえも愛しくて、いくら見てても飽きない。


「悪い魔法使いが俺だから、主人公の王子様は一体誰なんだろうね…?」

返ってくる事のない返事。
俺の中で生まれた感情、言葉に、その滑らかな髪を撫でながら自己嫌悪に陥った。


「…もし俺が王子様だったら、悪い魔法使いは誰なんだろうね」

――なんて、そんな事、あるわけないのに言ってみる。
主人公には聞こえるはずがないから、大丈夫だ。


そして、もし自分がそうだったら、なんてどこかで期待してる自分が嫌になる。
思わず苦笑いを零した。



「でもダメだよ」
今までの考えを振り切るようにそう切り出して、トーマはきっちりと閉められたカーテンの向こう側にある窓に目を向ける。

「ここまで無事に辿り着けるほどの男じゃなきゃ、おまえには相応しくない」


そう。
ここまでの道のりに、無数に仕掛けられたトラップ。
それを、いとも簡単に乗り越えられる奴じゃなきゃ――


「――おまえを守れるはずないだろ?」


呟いたトーマの声は篭った部屋に、静かに消える。



「でも大丈夫」


「もし王子様が主人公を迎えに来なくても」



「俺がちゃんと、守ってやるから」

再び主人公に目を向ければ、一瞬で意識を惹かれる可愛い寝顔。
主人公の身体は、規則正しく揺れる。


「ずっと、ずっと―――」


愛しいその寝顔を見ていれば、思わず理性を失いそうになる。

ゆっくりと近づけた唇は、触れることなく離される。
自分の犯そうとした過ちに、再度苦笑いが零れた。


そのまま俺は、主人公を抱きしめるように、その胸の中に顔を埋める。

――主人公の匂いは、存在は…俺の心を安心させた。


ドレス越しに感じる主人公の熱。
規則正しく聞こえる鼓動。
それに合わせて揺れる髪。



…やばい。

今度こそ理性を失う前に、俺は飛び跳ねるように主人公との距離を取った。
ある意味、愛する女と200年以上も一緒に居て、一切の手を出していない俺は凄いと思う。

あたりまえだが、キスさえも、その誘うような赤い果実に口付けたことなんてない。

俺にとっての一番の敵は俺。


俺にとっての幸せは、主人公が幸せになること。だから…



だから、俺は主人公が傷付くようなことは絶対にしない。


俺が護ってる身なのに、手を出したなんて事になったら、笑い話にもならない。




「嗚呼、もうあんなに月が高い。そろそろ眠らなきゃね。お肌によくないよ。おやすみ、主人公」


――って、主人公はもう200年以上寝てるんだった。
そんな事を思いながら主人公の寝顔を見ていれば、頬が緩むのを感じた。


ちゅっとリップノイズを響かせ、その額におやすみのキスを落とす。


また明日も、楽しい一日が過ごせるようにと願って。



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