短編

□星の願い
2ページ/3ページ




オリオンSide




ボクはこの人類の世界でいう8月頃、ひとりの人間の女の子に引き寄せられてここにたどり着いた。



元々はボク達の主である、放浪癖のある神様のニール様を探しにちょっと散歩してただけなんだけど…。

あっちの世界での10分程度で戻るから!と元気よく部屋を飛び出したのがそもそもの間違いだったのかもしれない。


せめて主人公も一緒に連れて行くんだった…、と心の底から思った。

そうすれば傍に居られる、ずっと帰ってこないボクを心配だってしてるだろう…だからこそ8月の中旬を迎えた頃には本気で後悔し始めた。


その後悔はいつまで経っても消えなかった。

ついさっきまでは―――。





ボクがマイに引き寄せられた理由がやっとわかったのはほんの小一時間前の事。

やっとのことでニール様と再会できて、ニール様は人間の願を叶える神様だから、マイの事をずっと想っていたウキョウという男に付き添っていて…。


だからボクはマイに引き寄せられた。



でもウキョウの願いは叶ったから、これでニール様と一緒に自分たちの世界に帰れる、主人公に会える……はずだったんだけど…。





「はぁ…どうしよう!これって緊急事態だよね!?主人公がイッキのファンクラブ並みの仕返ししてきたらどうしよう!?サスペンスかな?それともホラー!?今、ボクただの人間なんだから精霊の主人公からのお叱りなんて受けたら…!!!」



いつものノリで騒いでみても虚しいだけで、ただの人間になってしまったボクの声なんて天(そら)に届くはずもない。

茜色に染まっていく空を見上げればだんだん青く、夜の色にグラデーションが掛かっていた。



輝く星にそっと手を伸ばしても、どれだけ声を上げても、もう届かない。



主人公はボクを探してるのかな?もう聞いたかな、ボクとニール様が人間になってしまったこと…。

ボクがもう少し頑張ればせめて、ニール様だけでも神様のままで居られたかもしれない。

そうなれば…いや、そうしなくてはならなかった。


天(うえ)には主人公を独りで残ってしまった…愛する恋人を、残してしまった。



これじゃあウキョウより酷い状況だと、虚ろになったボクの脳は薄く嫌な考えを再度自覚させる。



本当に、どうしようもない状況。
同時に、どうにかしなくちゃいけない状況。

ウキョウと同じ人間だという立場だとしても、もうニール様に助けを求める事もできない。





「オリオン」

「ニール様!いったいどこに…もう何時間もここで待ったんですから!また放浪でもされたら…」


用があるから少し待ってて、とザリガニ公園に置き去りにされて、どこに行っていたのかやっとニール様は戻ってきた。

ついさっきまで思っていた暗い気持ちを振り払うように明るく振る舞ってみせれば、ニールの表情は辛さ、瞳には寂しさが浮かんだ。



「ニール、様……」


ニール様の言いたいことくらいわかってる、伊達に今まで傍に仕えていたわけではない。

それに、こんなに素敵な神様、他には居ないだろう…。






「オリオン、願ってごらん。大丈夫、きっと天に届くから、主人公に、届くから」




ニールだって主人公の事が心配でたまらないのだろう。

それでも、そう言ったたった一言が、不思議なくらい正しい道を示してくれているようで――






叶うなら、ボクはもう一度、前のように――




空を見上げれば夜空を落ちる、流れ星…ボクはこれ以上ないくらいに、強く願った。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ