短編

□砂糖の甘さ
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静まり返った部屋の中、ノートに走らせるシャーペンの芯が削れていく音だけがオレの耳に届いていた。
それを遮るように家のインターホンが鳴り響く。


生憎、今この家にはオレしか居なくて、だからその対応はオレがしなくちゃいけない。
軽くため息を吐きながら重たい腰を上げて客の待つ扉へと向かう。


扉を開ければ、見知った人物が姿を見せた――


「はぁい、シン!主人公ちゃん登場☆」



――気がした。

オレは何も見なかった。

ああ、そうだ。
きっと疲れてるんだ。

それはもう幻覚が見えるほど疲れが溜まってるんだ。
勉強のしすぎだ、少し休憩でもしよう。



「ちょっと!シン!なんでドア閉めるの!?中に入れてよ!!寒いよ!」

これは何かの勘違いだと安心しきっていれば、ドア越しに聞こえる呪いの言葉。


再び扉を開けて外を覗けば、見間違いでもなんでもないオレの幼馴染、兼彼女が、扉が開かれたのを確認してすっと目を細めてにこりと笑った。

それでもオレはそれを許さずに厳しく言い放つ。




「帰れ」



「うっわ、酷い!シン酷い!」

「ていうか何?騒がれて近所迷惑なんだけど。それくらい考えればわかるだろ、バカ」


正論を振りかざせば、主人公は不貞腐れたように口を尖らせた。

それだけだったら追い返そうと思ったが、そうもいかなくなった。


主人公が瞳に溜めた涙を零さないように、精一杯の笑顔を作って「ごめんね」なんて言いながら痛々しくオレに笑いかけてるのを見た瞬間、オレはその細い腕を引いていた。



「…今休憩中だから、責任もって付き合え」

それだけ言って、オレは赤くなっているであろう自分の顔を隠すように主人公に背を向ける。

そのまま奥の自分の部屋へと戻れば、暫くしてちょこちょこ、なんてバカみたいな効果音が着きそうな主人公の足音が聞こえてくる。






いくら幼馴染とはいえ、さすがに自分の言動に罪悪感が生まれた。



受験勉強に専念するから暫く会うのやめようとか、やっぱり会いたいとか…そういうオレの我儘を、コイツは文句ひとつ言わずに聞いてくれてる…。

今日来たのだって、多分数日前にオレがいい息抜き方法ないか、とか聞いたからだろう。



「あのね、冥土の羊で新しいお茶出すことになったんだけど、発注業者が間違えてすごい数届いちゃって…ワカさんにわけてもらったの。息抜きにと思って」


部屋に顔を覗かせるなり、手に持っていた紙袋を掲げて用件を言う主人公。


…ほら、コイツの事ならオレはなんでも理解する自信がある。
伊達に生まれた時から一緒じゃない。


「淹れてくるね」


そう言って主人公は慣れたオレの家のキッチンへと向かった。



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