短編

□いつかきっと
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燐Side.



「っ、くぁ…!」

もう何度めだろう。
愛するひとの最奥に欲を吐き出す。

目の前の美しく愛しい王女さまを見つめれば、王女さまもまだ熱の残る視線をこちらに向けた。

たまらずにその赤く熟れた甘い唇に自分のソレを押しつける。
そうすれば主人公さまは優しげに薄く笑みを浮かべてそれに応えてくれる。
ただ何度も唇が触れ合うだけのキス。


「燐は甘えん坊で仕方のない子ね」

名残惜しさを感じながらも唇が離れれば縋るように胸元に顔を埋める。
その直後、甘やかすように呟かれる言葉。
よしよしとあやすように頭を撫でられればそれまでの情事の淫靡な香りが充満するこの匂いを酷く濃く感じ、切なさに胸がズキリと痛んだ。


主人公さまの周りには強く美しい雄蜂が沢山いる。
それにいずれこの国の頂点に君臨する女王蜂。

奴隷だった自分が主人公さまの一番になんてなれるはずがない。
そんなわかりきった事を思えば思うほど強くなるこの気持ち――…


この気持ちを伝えたら主人公さまは僕を嫌いになってしまうだろうか。
もう部屋に呼んでくれなくなるのだろうか。
もう触れ合う事も叶わなくなるのだろうか。

きっとそうだ。僕の代わりなんていくらでもいる。

あの場所から救い出してくれた主人公さまの瞳に映ったのがたまたま僕だっただけ。




容赦なく抉るような胸の痛みに頬を一滴の涙が伝った。







(この気持ちを伝えたい)



(僕はいつだって、主人公さまの味方)

(だからせめて…僕を捨てないで)

(僕は貴女の傍に居られるだけで幸せだから)




2014.1105

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