月光の雫

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そんな飴玉入りパフェを何事も無く…
いや、今となっては食べ進めるたびに口の中で飴が砕け、ガリガリと音を響かせてはいるが…。


そんな幸せそうなリリの表情を少し見たころでアヤトは「ここも暇だな…レイジんとこでも行ってくるか」なんて言いながら、腰かけていたソファから重たい腰を上げる。



「ちょうどいいやアヤト兄、あの変態二人組殺してきていいよ」

「はっ、それじゃつまんねェって。お前がイジられてんの面白いし」

「悪趣味」

「リリだって似たようなモンだろ」


そんな会話を、腰を上げてドアへと歩を進めるアヤトの背中と言葉を交わす。
異変があったのはアヤトがドアノブに手を掛け、振り返った時だ。



「――おい」

「む?」
あからさまにおかしい様子…いや、数秒前までしていた会話の明るい声とはまるで逆…。
低くしたアヤトの声に、リリはスプーンを加えながら顔を向ける。




「バカ!…お前、血、足りてねえだろ……こんなんになるまでほっとくんじゃねェ!!」

怒鳴りつけるように言いながらドアから離れ、凄い勢いでこちらに戻ってくるアヤトにリリは反射的に目をきつく瞑る。


が、てっきり殴られるのではないかと身を強張らせたリリに襲い掛かった感触は別のものだった。


「くそっ……心配させんな…」


ふわり、とした感触が自身を包む。
ドクドクと伝わる鼓動。
暖かい体温。



気づけばアヤトが抱きしめていた。





それからすぐにアヤトはリリを軽々と抱き上げ、自分の膝に座らせる。
ちなみにアヤトの左腕はきっちりと胴体に回され、腕に力が籠っているために身動きは取れない。
更に背中に居るアヤトの表情は見えない。

そんな訳の解らないリリはただ首を傾げるだけで――――



「…ん、飲め」

「ん?」

「だから飲めって!」

そう言って顔の前にずいっと差し出される右手。



「ありがとアヤト…」

きょとん、としていたリリも、一言お礼を言ってアヤトの右腕を引き寄せる。
チロリと真っ赤な舌をだし、なぞる様に噛みつく場所を舐めていく。


「…バカ、ふざけてっと襲うぞ」

「むぅ……」

アヤトの脅迫まがいの言葉を受けて不服そうな声を漏らすも、リリはその手首に牙を立てる。



「っ…」

「…んぐっ……は、はぁ…」




数分後、ふはーと息を吸いながら唇を離したところで、運がいいのか悪いのか、キィと重みのある音を響かせて部屋の扉は再び開いた。



「あ、シュウ兄!」

扉を開けて入ってきたのは紛れもなくシュウの姿。
部屋に入るなり、シュウは嫌でもその現状を把握する。

部屋に充満したアヤトの血の匂い。
リリの口元から垂れる赤い液体。


「……アヤト、何?妹萌え…?」

「違ェ!」


2人の言い争いが酷くならないうちにリリは話題を逸らす。

「シュウ兄、どうしたの?」


「リリ、この間新しいぬいぐるみが欲しいって言ってたから…作った」

そう言ってシュウの腕に抱きしめられていた大きなぬいぐるみは未だに離さないアヤトの腕の中のリリの腕に収まる。

「ありがとう!」


ぬいぐるみの正確な大きさを言うならば、リリを半分にしたくらいでかなり大きい。
そんな大きいものを一生懸命に細い腕で抱きしめ、幸せそうに微笑むリリ。


そんな妹に頬を染める2人の兄。



逆巻家は今日も平和(?)です。



(…え、つか……作った…?あのくそデカいぬいぐるみを?)
(そう言っただろ?)
(……。(あの<Vュウが…!?))


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