中篇

□03
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ウキョウは肯定するように口角を吊り上げたが、同じようににこりと笑う私を見て、顔を歪めた。


「……何、笑ってんの?」

「いや、なんて幸せな死に方なんだろう、って思って」

今の言葉は真実だ。
ある意味で、軽い願望と言っても過言ではないだろう。

私の言葉を聞いて、ウキョウは目を見開いた。


「でも、お願いがあるの…事故でも、他の人に殺されるのでもない…ウキョウ……ウキョウの手で私を殺して…一度だけでいいから……そうしたら、また、頑張れるから…!!!」


愛おしい人に、心の底からの願いを告げれば、何故だか首を掴んでいた手の力は緩められ、開放された。
ウキョウに異変が現れたのは、それから数十秒後。


「え、あ…俺……うわっ!?シア!?」

「え…なに、この人たち……」
地面に転がっている男たちを見て、ウキョウはそう言った。


……ウキョウは、二重人格――?


そんな答えを生み出した瞬間、脳内に響くルナの声。


<緊急事態だシア!そこに居る彼は、この世界のウキョウではない!>


「「え…今、なんて…?」」

私とウキョウの声が重なった。
2人は顔を見合わせ、不思議そうに言葉を詰まらせる。


「「…………」」



「…どうか、した…?」

続く沈黙の中、それを破ったのはウキョウだった。

「…なんでもないよ」

一言、そう返せば、ウキョウはそれ以上追及しなかった。
というか、それを知りたいのはお互い様だ。
恐らく、ウキョウも今のことを聞かれたくないのだろう。


「オレ、出てきちゃったみたいだし、そろそろ行くね。もうこんな時間にひとりで外に出ちゃダメだよ?」

「俺、家まで送ることは出来ないんだけど、大丈夫?」

控えめに言われたその言葉に、私は静かに頷いた。
それを確認したウキョウは私に背中を向け、神社の外へと向かう――。


「ウキョウ…!!」

思わず呼び止めれば、ウキョウの足はピタリと止まる。

「ウキョウは……そこの井戸に、落ちたこと、あるの…?」

その質問に、ウキョウは私を振り返ったが、何も言わずに顔を歪めて小さく笑い、再び歩みを進める。



私は、その背中が見えなくなるまで、見つめ続けた。



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