中篇
□04
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「ええと…ごめんね、俺のせいで……」
「私は大丈夫だから気にしないで」
帽子を手渡す際、ウキョウは足元にあった石に躓き、池に落ちた。
更にそんなウキョウに手を伸ばしたシアも巻き沿いを食らう羽目になった。
池から這い上がるだけだというのに、何故だか30分もかかって、ようやく地上に戻れたのだが…。
「ちょ、ちょ…!」
不意にウキョウは意味の解らない言葉を叫びだす。
「?」
顔を見れば真っ赤で、ウキョウは自分の上着を脱ぎ始めた。
「…ウキョウ?」
そんなずぶ濡れた上着をきっちりと私に着せ、私に背中を向ける。
「はぁ…今日が晴れでよかったよ。服もすぐ乾くと思うしね…」
空を見上げて言えば、私は状況の理解に苦しみ、疑問をぶつける。
そうすれば、返ってきたのはお説教…。
「す、透けてたからです!まったく、もう少し自覚を持って!じゃないと俺が持たないよ…。夜中に神社に遊びに行って男に絡まれてるし…。これからは警戒心を忘れずにね!」
「は、はい…」
そんなお説教の間もウキョウの顔は真っ赤で、
私を気に掛けてくれているという目の前の現実から、私の頬は嫌でも緩む。
それから、2人で、「何やってんだろうね、俺たち」なんて笑いあった。
それから服が乾くまでの休憩で、2人で傍にあった木に寄りかかって座った。
ふと視線を上げてウキョウを見れば、濡れた髪からぽたぽたと落ちる雫。
そんな髪を掻き上げている姿は色っぽいな、なんて考えていれば、不意にぶつかる視線――。
心臓がどくんと跳ね、どちらともなく視線を反らす。
そんな愛しさと同時に、そろそろお別れの時期かな、なんていう切なささえ覚えた。
今隣に居るウキョウは、今まで廻った世界の、どのウキョウよりも私を見てくれて――
私の愛したウキョウそのものみたいだ。
だから、もう少しだけ、世界が用意してくれた死に、抗ってみようかな、なんて思う。
暫く続く沈黙。
そんな沈黙を破ったのはウキョウで…
「シア、大切な話があるんだ。聞いてくれる?」
その瞳は、切なさで揺らいでいた。
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