中篇
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トリップなんてものが本当にあるなんて、最初は信じられなかった。
元々私の居た世界には、私の居場所なんてものはなかった。
つまらない日常。
愛情のない家庭。
それらが嫌で…
―――私は自殺した、はずだった。
気づけばよく知らない場所に居て、目の前に居たのは髪が白くて眼を真っ赤に染め、狂ったように声を上げる数名の男。
地獄にでも来たのかと思った。
その男たちは手に持っている刀を振り上げ、私めがけて振りかざす。
どうせ今、私は自ら命を捨てたんだ。
ここが地獄で、この後何百回死を味わうような苦痛を与えられるのだとしても、あの世界で生きるよりはマシだと、痛みを待って目を閉じる。
が、その痛みが襲ってくることはなかった。
代わりに、ドスッと鈍い音が耳に届く。
「あーあ。見ちゃったんだ、君」
目を開ければ、視界を埋める浅葱色。
どこかで聞いた声。
少し視線を上げれば、風に靡く綺麗な茶色い髪。
思考の読めない、笑っている目と口元。
それが、初めて彼に会ったときの出来事。
――――――――
―――――
推測でだが、これはトリップというものなのではないだろうか。
新選組の屯所に連れてこられて、私は幹部に囲まれ、そう説明をした。
みんな難しい表情をしていたが、結果を出すのは近藤さんの言葉。
この人は詐欺師に何百回騙されることだろうか、そんな悪い印象が出るほどに、近藤さんは暖かく私を迎えてくれた。
その言葉を聞いて私は決意したんだ。
全てを話す、と。
たしかに言えない部分は濁らせて、になるけど…
それでも私は口を開いた。
さっき話したことの補足だ。
この世界に来る前に何があったのか、…私が自害しようとした事。
そしてこの世界を知っていること。…羅刹を知っていること。
そうでなくとも、未来から来たということは歴史に名さえ残っていれば、少なからず新選組を知っているだろう。
そして最後に―――
私が狂っていることを。
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