中篇

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あっちの世界での私は、つまらない現実を見続けるより、現実逃避というものが如何に楽か、友達に借りたゲームで知った。

とは言っても、そこまでやりこんでいた訳でもなく、借りた薄桜鬼というタイトルのゲームで2、3人攻略してそれ以上そのゲームにかかわりたくないと思った。


いくら非・現実な物語とはいえ、こんなにも人間は必死になにかのために生きられるんだな、なんて考えたら自分の存在はなんだろう?だなんてマイナスなことを考えてしまう。


正直、プログラムでもなんでもいい。

作り出された性格でもいい。

造られた設定でもいい。

吹き込まれた声でもいい。



生きている理由≠ェある彼らが、羨ましかった。



―――――――――
――――――




私が狂っている、と言った理由を、彼らは本当に理解したのだろうか?

そう言ったにもかかわらず、みんなは変わらず優しい目を私に向ける。




そして、総司の小姓になってから、数か月の時が過ぎた。


池田屋事件が既に終わっている、と聞いたのはつい最近のこと。

それを聞いてから嫌な感覚がまとわりついて離れなかった。


感覚でしか覚えていないが、沖田って池田屋以降、なにかの戦に出た事ってあった?


池田屋で、もうあれ≠ヘ始まってる…。

だとしたら……終わりは近いんじゃないか?


そんな、嫌な結果が脳裏を過ぎる。




沖田総司は唯一、2回もゲームでルートを辿ったキャラだ。


2回目はただの選択ミスで、そっちに行ってしまっただけなのだが…。

だからなんとなく、彼の好みは理解しているつもり。


だけど思っていたより、キツイ性格ではなかった。

黒くてドSで、意地悪、リアルで関わるにはめんどくさい奴。
そう思っていたのに、誰よりも疑り深そうな彼は、私を屯所に連れてきた時から優しい目をしていたのを今も覚えている。


そして私が小姓になって一ヶ月も経たないうちに、私たちは恋人同士になった。



…なんだか変な感じ。


そう思った時には既に、歯車は狂いだしていたとは、誰も気づかない。






――――――――――――
――――――


「あーあ、ほんと土方さんってなんで気持ち悪いんだろう」

はぁ、と思いため息を吐きながら総司はそんな悪態を着く。


「池田屋のときに血を吐いたって…それで心配してるだけでしょ」

「その心配、ってのが気持ち悪いよね」

そんなことを言いながら、総司とシアは顔を見合わせて笑いあう。


土方が「休め」と言って部屋に閉じ込めようとするので、総司は若干不機嫌だ。

…いつもは仕事しないくせに。



でも退屈だろう、とシアは甘味とお茶を持ってきた。
そしてその第一声、土方への愚痴は始まった。


愚痴に飽きたのか、ごろん、と私の膝に頭を乗せて、総司は猫のように甘える。
そんな彼の頭を撫でれば、気持ちよさそうに目を細めた。



「…ねぇ、不謹慎なこと言ってもいい?」

低い声で、唸るように紡がれる言葉。

その言葉に私は頷いた。



「僕ね、シアちゃんがあっちの世界で親に愛されない子でよかったな、って思う」


「うん」
いきなり元居た世界の話をされるなんて思ってもいなかったので、動揺で返答に困ったが、どうにかそう答える。

総司は相変わらず真剣な眼差しで、必死に続きの言葉を紡いだ。



「もし違ったら、もしシアちゃんがあっちの世界に不満を感じなくて、自害しなかったら…」



―――そうしたらきっと僕たちは巡り会えなかった。


寂しそうに言う総司に、私は思わず抱きしめる。
総司も身体を起こして、私のことを力いっぱい抱きしめてくれた。


「僕がいっぱい愛してあげるから」

ね?と首を傾げて言う総司。


そんな総司の優しさと愛おしさに、気づけばとめどなく溢れる涙。


「あははは、泣くことないでしょ」
おどけたように言いながら、総司はその大きく優しい手で頭を撫でてくれる。





嬉しさより悲しさが上回った涙だということに、彼は気づいただろうか?

これから彼を失うという、悲しさに。



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