中篇

□03
1ページ/1ページ







最近、総司の嫌な咳は酷くなった。
屯所の移転やらいろいろあって、隊士の健康診断でやって来た松本先生は総司に告げたのだろう。

彼の症状を。


私はあえて、その後をついて行かなかった。

同室である総司の部屋で、甘味でも用意してただじっと待つ。


松本先生と総司が姿を消してから数時間が経った頃、総司はようやく戻ってきた。
いつものように余裕そうな笑みを浮かべて。



「あ、シアちゃん!なに?そのお団子どうしたの?」

「一緒に食べようと思って」

「そっか、待たせちゃってごめんね」


そう言って総司は私の隣に腰かける。
精一杯の笑顔を作って、一緒に笑いながら団子を頬張る。


総司を見上げれば、月明かりに、その瞳は悲しさの色を浮かべて揺れていた。


そんな彼の姿に、私の身体は言うことを聞かない。

「…シア、ちゃん…?」


突然総司を抱きしめて頭を撫でれば、不思議そうに総司は私に目を向ける。

腕の中に確かにある温もりを確かめながら、私が静かに口を開いた。


「…知ってる」

「え?……あ、そっか…シアちゃんは、全部お見通し、ってわけか…」

シアの言葉を聞いて、総司は安心したような、寂しそうな表情をする。
そして両腕を回してシア抱き寄せる。


「…もし総司がまだ私を愛してくれるなら……そんなに強がらないでよ……」

「っ……僕は…僕はまだ戦える…!」

「うん、」

顔を歪めて弱みを見せる総司。
ゆっくりと、落ち着かせるようにその広い背中を撫でる。



「僕は……守りたいんだ。新選組も、近藤さんも……シアちゃんの事も」


「せっかく!せっかく見つけたんだ…!大切なもの!」
叫ぶように言って、総司は離さないとばかりにシアを抱きしめる腕に力を込める。

その痛みが愛してくれている分の強さなんだと思うと、痛みさえも愛おしい。



「僕じゃ…シアちゃんを幸せにできない…」
悲痛に訴える総司を見兼ねて、シアは微笑んで声を掛ける。


「総司にしか私を幸せにできないよ。総司しか、私を愛してくれない。…わかってて、傍に居たくて、一緒に居たんだよ、私は」


「そっか…シアちゃんは…知ってて、僕の傍に、居てくれたんだよね……嬉しいな」

そう言って総司は力なく微笑む。



「大丈夫。私はこれからもずっと、傍に居るよ。ずっと、ずっと――」


「うん、ありがとう」

妖しい笑みで総司を見つめるシアに、総司は救いを求めるように手を伸ばす――




――――――――
―――――



「おう、総司はどうした」

「寝ちゃったよ」

「そうか」

コントロールも出来ずに感情を出しすぎて疲れたのだろう。
総司はそのまま寝てしまった。


私は少し頭を冷やそうと部屋を出たところだ。
そこで土方と出くわす。

土方は知っているのだろう。総司の事。

言わなくても、誰に言われなくても、きっと何かしらは悟っている。


「…あいつを頼む」
それだけ言って土方は背を向けて姿を消した。





「大丈夫。ずっと、一緒だから」


そう言って笑ったシアの声は、闇へと消えた。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ